【無料公開】シークレット・オブ・アス|第二章 感じること
- ミーナム
- 7月25日
- 読了時間: 10分
更新日:3 日前

シークレット・オブ・アス 第二章 感じること
屋敷の食卓は笑い声で溢れていた。三歳と二歳の幼い子どもたちが、二人してラダー叔母さんを取り合うようにして抱きついてきたため、抱きしめられた本人は両手でそれぞれの甥姪の手を握らなくてはならなかった。さすがに二人を同時に抱き上げるのは無理だろう。甥も姪も、とても元気な子たちだ。
「ラダーおばさん、ヌンも連れて行ってね」
「どこに行くのかな、イケメンくん」 そう言って甥をいつもの椅子に座らせ、子供用の安全ベルトを着けてあげた。毎朝の習慣だった。
「ラダーおばさんと遊びに行くんだ」
「ラダーおばちゃん、プレーを抱っこしてぇ」 甘える姪の声に、ラダーは柔らかい頬にキスをしてあげてから、甥と同じように椅子に座らせた。少し騒がしいが、その賑やかさが家族に笑顔をもたらしていた。
「さぁ、朝ご飯を食べましょうね。ちゃんと食べないと大きくなった時にお勉強ができませんよ」
「ヌンはラダーおばさんみたいに頭が良くなりたい!」
「プレーも!」
「頭が良くなりたければ、ちゃんとミルクも飲まなくちゃね」ラダー叔母さんの優しい言葉に、二人の子どもはますます彼女に夢中になった。叔母のように賢くなりたいと思っているのだ。
家族の温かさと甥姪の可愛らしさは、傷ついたラダーの心にささやかな笑顔を取り戻させてくれる。しかし誰も知らないだろうが、彼女の心はいまだにある人の面影を忘れられずにいた。
「仕事はどうだ、何か困ったことはないか?」
「ありませんよ、お父さん。仕事はむしろ楽なくらいです」ラダーは微笑んで、父親のためにコーヒーを注ぎ、いつものように両頬にキスをした。
「お母さんのコーヒーはどうしたの、ラダー」
「今、用意してますよ、お母さん。まだ若いんだから焦らないで」軽くからかいながらも、母親にも同じようにキスをしたが、甥姪の騒がしい声に呼ばれて席に戻り、二人にエビのお粥を食べさせてやった。
出勤前の騒々しい朝はいつものように笑い声に満ちていたが、ラダーがエビ粥を見つめる瞳には、一瞬だけ悲しみが宿った。しかしすぐに笑顔を取り戻す。どれほど懐かしんでも、過去は二度と戻らない。
かつて愛する人に料理をねだられ、好んで作ってあげていたのがこのエビ粥だった。二人が最も好んだ料理の一つだった。美味しいと褒められ、何度も作ってと頼まれたことを今でも覚えている。病気の時もこれを作り、食べさせてあげた。しかし、それももう過去のことだ。ラダーの優しさも温もりも、その女性にとってはもう何の意味もない。
「ラダーおばさん」
「ラダーおばちゃん」二人の甘える声に彼女は本を置いて、愛しい甥姪をソファに抱き上げて一緒に座った。休日はいたずらな甥姪たちに奪われてしまうが、決して嫌ではない。
「なぁに? ヌン、プレー」
「ヌン、アイスが食べたい」
「プレーも!」
「ヌン、ラダーおばさんにロボットを買ってもらいたいな」
「プレーも!」 甥姪の甘える姿にラダーは微笑んだ。お昼寝が終わるとすぐ、甘えん坊の二人の時間が始まる。兄や姉がなぜ甥姪を彼女に預けるのかはわかっていた。寂しさを紛らわせるためだ。実際に彼女が何を思ってぼんやりしているのか、誰も知らなくても。
「わかったわ。じゃあお着替えしましょうね」
休日のデパートは混雑している。ラダーは大きくため息をついた。人混みが嫌いな彼女には、甥を抱いてくれている友人の存在がありがたかった。
「人が多いわね。何かイベントでもあるのかしら、テーン?」
「さぁ、休日ってこんなものじゃない。子どもたちをアイス屋に連れて行きましょ」混雑した有名なアイスクリームショップの前で待つのは嫌だったが、姪がどうしても食べたいとねだるので仕方がなかった。店の内装がピンクで可愛らしいことに思わず笑みがこぼれた。
「ラダーおばちゃん」
「なぁに?」
「プレー、チョコが食べたい」
「いいわよ、今日はお利口だから二つ買ってあげるね」 子どもたちが大好きなアイスクリームは、予想より早く提供されたので、ラダーにも笑顔が戻った。
仲睦まじい家族の姿に、多くの人が微笑んだ。美男美女の両親に似た甥姪たちの可愛らしい姿が目を引いていた。
テーンは、美しい女友達が二人の子供にアイスクリームを食べさせたり、汚れを拭いてあげたりするのを見て、彼女に早く帰るよう催促したくなった。彼女は、自分が店中の注目を浴びていることに気づいていない。美しいラダーと一緒にいると、自分はいつも男らしく振る舞わなければならない。男を誘惑するような視線を感じる暇もない。結局、男たちは美しい女友達しか見ていないのだから。
「ラダー先生、早くしましょうよ。注目の的は嫌よ」
「何よ、私が彼女になってあげるのに」
「ラダー先生、ワタシは男性がいいのよ。いくらあなたが美人でもオンナ*には興味ないの」
「テーンおじさん、『オンナ』って何?」甥の質問にラダーは慌てて友人に黙るよう促した。
「ロボットが欲しいって言ってなかった? 早く食べて買いに行きましょうね」甥っ子をおもちゃで釣れば、大人の言葉について尋ねられない。まだ幼稚園に入ったばかりなのに、今の子供たちは自分たちの時代よりもずっと知識が豊富だ。時々、どうしてそんなことを知っているのか、驚くことがある。
ロボット、おもちゃの車、そして姪っ子のための人形。値段は少し高めだけど、ラダーは愛する甥っ子のために我慢して買わなければならなかった。だが、不満を言っていたのは彼女ではない。親友の男性は立派な紳士として荷物を持ってくれている。途中でずっと不満を言っていたけれども。
「ラダー先生、今後は甥っ子のためにおもちゃを買いに来る時、ワタシを誘わないでね」
「ちょっとだけだよ」
「あなたにとってはちょっとでも、ワタシには大きすぎる。腕の筋肉が痛くなるわよ。ちょっと人が多いブースでも見に行かない?」
「人が多いところには行かないよ。ヌンがぶつかっちゃうでしょう」
「芸能人が見たいんでしょ、ヌン」
「芸能人も人間よ。うちの甥っ子にあなたみたいな俳優に夢中になるよう教えないでよ」
「あなたは皮膚科医だから、もう見飽きただろうけど、ワタシはやっと見られるんだから。ワタシみたいな美しい人にお任せしなさいよ」ラダーは何年経っても変わらない親友の態度に呆れていた。でも、患者を診るときの親友は、こんな風に振る舞わないことを知っている。
有名な美容クリームブランドのイベントは大勢の人で賑わっており、ラダーはイベント会場から少し離れた場所に立っていることにした。甥っ子は親友に抱っこされて会場に入ろうとしたが、姪っ子はまだ小さいので、人混みにぶつかることを心配して入るのを嫌がった。さらに、姪っ子はこのようなイベントが好きではないようだった。イベントに来ている多くの人々は、まだ登壇していないプレゼンターを見るために押し寄せていた。
「プレーちゃん、私たちはお菓子屋さんでヌン兄ちゃんとテーンおじさんを一緒に待っていようか」
「うん!」ラダーは姪っ子を抱きしめながら、友達にメッセージを送ることを忘れなかった。友達は好きな俳優を探している。
悲鳴がショッピングモールを爆発させるような勢いで響き渡り、ラダーはすぐに姪っ子を連れてその場から離れた。彼女が働いている部門には芸能界の俳優も受診をしに来ることが多いが、彼女はそれでもこの無意味な叫び声を聞くのが嫌だった。でも、もしラダ-が振り向いてその叫び声の原因を見ていたら、彼女は心の中で決して忘れられない誰かに出会っていたことだろう。別れの時からもう一年も過ぎたにも関わらず。
透き通るように滑らかな肌が、人気のフィットネスクラブのプールサイドで集まった人々の視線を引き寄せた。水着に着替えるためにビーチタオルを外す姿に、多くの人々が釘付けになっている。ミルクのような肌に、細く引き締まったウエスト、美しい脚線美、そして脂肪一つない平らな腹部は、水着を着る自信を与えてくれる素晴らしい要素だ。
プレムシニーとテーンは、親友がビキニを選んで体をさらけ出し、周囲の視線を気にせずにいるのを見て、思わず顔をしかめた。そんなに露出が多くなく、可愛らしいデザインだが、ファーラダー先生の美しい体が着ると、誰もがそれをセクシーな服装だと感じてしまう。
「最初から皮膚科を選べばよかったな」
「どうして?」
「テーン、あなたは不思議に思わない? 皮膚科医ってほとんどがすごく美人なんだよ」
「確かに、ワタシも同意だわ」
テーンは、プールで楽しそうに笑顔でエクササイズをしている親友を見ながら言った。彼らは、友人が一人で寂しさに閉じ込められることなく、前向きに過ごす姿を見て安心した。あの時、彼らが会いに行った際、友人は振られたばかりだったのに、自分は元気だと言っていた。でも、一緒に過ごす時間の合間に、こっそりと涙を流していた。
「それで、ボウ先生はどこに行ったの?約束してたんじゃないの?」
「あそこ、ラダーより先に泳ぎに行ったよ」
「彼女は泳ぎたくないって言ってたじゃない。ただ座って話してるだけだって」
「きれいな女性を見かけたら、ラダーより先に飛び込んでいったよ」今まさに泳いでリラックスしている他の二人の噂で盛り上がる笑い声がまだ響いていて、その二人に「早く泳ぎに来なさいよ」と言われるほどだった。
きめ細やかな肌には水滴が肌に留まり、周りの視線を集める。しかし、ラダーが恥ずかしさや自信のなさを感じることはない。彼女の歩みは、自分の体に対する自信に満ちており、たとえプールから上がったばかりでもその自信は揺るがない。少し休憩を取りたくなり、黒いサングラスを顔にかける。そして、美しく触れたくなるようなその体の持ち主はプールサイドの椅子に身を委ねた。
高価なサングラスの下で、彼女の目は閉じられ、心の疲れを隠そうとしている。今、ラダーは、よく一緒に泳ぎに行こうと誘ってくれた誰かのことを思い出している。ラダーは自然と泳ぐことが好きになった。忘れたいことがあっても、心がそれを忘れられなくて、逆にその記憶を強く刻み込んでしまう。どうして自分一人だけがそのことを覚えていなければならないのだろう。今頃、その女性は新しい恋人と幸せに過ごしているのかもしれないのに。
いつになったら考えるのをやめられるのだろう、いつになったら泣くのをやめられるのだろう、この心はいつになったら新しい誰かを探せるくらい強くなれるのだろう。
「こんにちは……」ピンクの水着を着た可愛らしい女性の声に、ラダーはサングラスを外して、笑顔を返した。
「こんにちは」
「先生もここで泳いでいるんですか?」可愛らしい笑顔に、ラダーは少し驚いた。この呼び方からすると、彼女は以前自分の患者だったのだろう。
「はい、初めて来たんです」
「先生、私、ローズのことを覚えていませんか?」目の前の女性の少し拗ねた声に、ラダーは微笑み続けた。
「患者さんが多いので、覚えていなくてごめんなさい」美しい顔は微笑みをたたえているが、目の前の女性の手が彼女の手に触れようとした時、その微笑みは消えた。
「ローズのような歌手は、先生に覚えてもらえるほど有名ではないということでしょうね」女性歌手はラダーの美しい顔を見つめながら、ますます感心していた。そのミルクのような肌と、隠れたセクシーさを感じさせる体を見るたびに、彼女の感心はさらに深まった。
現在、芸能界では、この美しい女性医師が皮膚病の専門医として、また美容に関するアドバイザーとして非常に注目されている。さらに、スーパースター女優のイングファー・アピロムラックもファーラダー医師の患者であることが知られている。
「私は芸能界のニュースを追う時間がないんです」
「先生、冗談ですか?」
「冗談じゃないですよ。仕事に戻ったばかりで、芸能ニュースを追う時間なんてないんです」ラダーは柔らかな声のトーンを保っているが、目の前の女性歌手のアプローチに少し不快感を覚え始めていた。挨拶はいいけれど、こんな風に近づかれるのは違うと感じていた。
「先生……」
「ごめんなさい、もう失礼します」女性歌手は美しい体が離れていくのを、驚きの目で見つめるだけだった。自分はファーラダー医師の関心を引けるほど魅力的ではないのだろうか。多くの人がファーラダー医師は男性に興味がないと言っていたけれど、なぜ先生は女性にも興味を示さないのだろうか。
【第三章 あなたのことは知りたくない】に続く
*オンナ……原文では「ชะนี」(チャニー)と書かれており、特にゲイの間で女性を指すときに使われる言葉。女性を軽蔑するニュアンスを含んでいた過去があるが、親しい仲間内で使用する際にはユーモアを交えている。
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