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【無料公開】シークレット・オブ・アス|第0章 プロローグ

  • ミーナム
  • 7月18日
  • 読了時間: 4分

更新日:2 日前


シークレット・オブ・アス プロローグ 無料

シークレット・オブ・アス

第0章 プロローグ


 高価で美しいショルダーバッグがベッド脇のテーブルに置かれた。甘く美しい顔立ち、滑らかに透き通るような肌、曲線美を描く肢体は、夢を見させるように魅惑的で、その部屋の主は、白衣を含めて仕事着を脱ぎ始めた。白衣は、その人物がどのような立場であるかをよく示している。ほとんど裸になったその姿には、上と下に二枚の衣服だけが残されている。美しい指先が髪をまとめ上げ、キスの跡を残したくなるような淡く透き通るような首筋を露わにした。そして多くの物事から解放されるために、浴室へと足を向けた。


 二人でもゆったり入れる白いジャグジーには、心地良い温かい湯がすでに準備されていた。美しい顔は目の前の浴槽を虚ろな視線で眺めていたが、ミルクのように滑らかで美しい裸身はゆっくりと浴槽の中へ足を踏み入れた。それは、かつて愛する人とじゃれ合いながら一緒に入浴できるようにと望んで選んだ、二人用の浴槽だった。だが、今日はもう以前のようではない。医師であるファーラダー・ターナヌサックは、捨てられた痛みと一年近く経っても忘れられない記憶に苛まれている。それでも、すべての記憶はまだ鮮やかに残っていた。だって私たちの愛は、三年も一緒に過ごしたのだから。


 自分が流した曲が耳に届くと、美しい顔に皮肉な笑みが浮かんだ。歌詞が深く心に刺さり、痛みに胸が締め付けられ、目を閉じて音楽に身を委ねた。


どれだけの時間

私が全身全霊を捧げても

それは無駄な日々になってしまった

あなたは言ったわね

私たちの愛を忘れろと

諦められるかと

何と答えればいいのか

自分の気持ちを説明することさえできない

だから私はこうして沈黙するしかないの

あなたは問いかける

なぜ何も言わないのかと

捨てられる者の気持ちを

あなたは分かっているの?

どれだけ私が苦しんでいるか

捨てられたことのないあなたにはきっと理解できないでしょう

それで

私に何を言えというの……


(ただ捨てられただけなのに、どうしてまだ覚えているの?)何度自分に言い聞かせても、この心は一切聞こうとしない。いまだにあの冷酷な女性を思い出してしまうのだから。もし家族が帰国して家業を継ぐようにお願いしなければ、彼女はきっと外国で暮らし続けただろう。タイに帰ってくることで、あのタイ人の女性の冷酷さをますます思い出してしまう。


 可愛くて、甘えん坊で、優しかったのに、まさかこんなにも情け容赦なく関係を終わらせるなんて。



コン、コン、コン!


「お嬢様、ラダー様」


「何ですか、ノムウン*?」家族付きの年配でふくよかな体つきの乳母の声に、ラダーは急いで寝室の扉を開けに向かったが、バスローブをきちんと整えるのを忘れなかった。そうしないと、ノムウンに服を着なさいと叱られてしまうからだ。


「寝る前にミルクをお飲みくださいませ、ウンの大切なお嬢様」


「もう大人ですよ。お母様はお父様と一緒にお出かけですか?」ラダーは乳母の望み通り牛乳を受け取り口をつけた。両親に対して寂しく感じることはない。家族の愛情は相変わらず温かかったし、今では兄と姉から甥と姪が生まれて二人もいる。その可愛く騒がしい様子が、過去の辛い記憶を少しずつ忘れさせてくれるのだ。


「ええ、奥様が寝る前に必ず牛乳を飲ませるようにと仰いました」


「お母さんも、おかしいですよね。私をまだ子ども扱いして。もう三十歳も間近なのに」


「三十歳だろうが四十歳だろうが五十歳だろうが、ラダーお嬢様はいつだって家族みんなの大切な存在ですよ」


「きっと家族だけですよね、ラダーを大切だと思ってくれるのは……。他の誰かにとっては、私なんて彼女の人生に全く必要のない存在だったのに」


「ラダーお嬢様……」


「私、大丈夫ですから。ノムウン、心配しないで。ただ捨てられただけです。だからこうしてノムウンに面倒を見てもらいに帰ってきたんですよ」ラダーの瞳には、明らかな痛みが映し出されていた。口では平気だと言っていても、本当は心の傷がまだ癒えていないことを、自分自身が一番よく知っている。



*ノムウン……ノムはタイ語で乳母という意味。ラダーは乳母のウンのことを「ノムウン」と呼んでいる。

こちらは『シークレット・オブ・アス』配信版です。

無断転載等の権利を侵害する行為は一切禁止いたします。




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