シークレット・オブ・アス|第一章 ファーラダー・ターナヌサック医師【支援者先行公開】
- ミーナム
- 4月6日
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シークレット・オブ・アス 第一章 ファーラダー・ターナヌサック医師
首都中心部に位置する有名私立病院は、裕福な人々で溢れていた。私立病院はどこも国公立病院と良好な協力関係を築いており、連絡が必要な症例ではお互いに協力を惜しまない。また、場合によっては専門医の派遣を要請されることもある。
セントキング病院の美容皮膚科の副部長を務めるファーラダー・ターナヌサック医師は、看護師や看護助手、診察を待つ患者たちからの挨拶に笑顔を返していた。
甘く美しい顔立ち、ミルクのように滑らかな肌を持つファーラダー医師は、着任わずか三カ月にして、すでに病院中の人気者となっていた。海外から帰国後、病院長である父親の要請により家業を継ぐために美容皮膚科部門での勤務を始めたのだったが、本人にはそれほどの意欲はなかった。
セントキング病院はターナヌサック家が経営する病院である。父親が院長を務め、兄と姉は経営部門で働いている。家族は次期院長としてファーラダー医師に期待を寄せていた。だが、この美しい医師本人は、国からの義務に従って、国公立病院で三年間働いたあと、すぐに、自分が望む皮膚科の専門を学ぶために外国へ留学した。
二十七歳という若さで皮膚科の専門医課程を修了したが、自由な海外生活の楽しさに惹かれ、そのまま現地で仕事を続けることを選んだ。しかし、失恋の痛手が原因で、そして最終的には家族の要望を断りきれず、帰国を決断した。
心に受けた傷は以前ほど鋭いものではなくなかったが、決して忘れられないものだった。描いていた美しい愛の物語が、相手が大学卒業と同時に冷酷に関係を絶ったことで、あっけなく崩れ去ったのだ。
ずっと一緒にいたにもかかわらず、彼女は別の男性の存在を隠していた。 ファーラダー医師は、年下の女性に騙され、心を捧げ尽くした愚かな女になり果てた。 三年もの間、心のすべてを捧げた結果、残されたのは惨めで滑稽な記憶だけだった。移り気なその女性にとって、自分の愛情など無価値だったのだ。いったいどれだけの時間が経てば、この心の痛みは癒えるのだろうか。いつも笑顔を絶やさない美しい表情の裏側には、誰にも知られない感情が隠されている。
家族からの懇願がなければ、再び故郷の国で働こうとは考えなかっただろう。一人でいるときは、いつもあの冷酷なタイ人女性のことを考えてしまう。だから、日々のニュース以外のことは何も知らないふりをして、自分の心を閉じ込めることを選んだのだ。