
特別編
第六章 殿下
第四話
最近、私はあまりよく眠れていない。殿下の容体がこれまで以上に悪化しているからだ。殿下は私の前で一切弱音をおっしゃらない。しかし、もう何年も側近としてお側に仕えている私にはわかる。
夜闇が訪れると、私はいつも通り、トゥーンクラモムが眠りに付かれるまで読み聞かせをして差し上げる。殿下が寝息を立てはじめたのを確認すると、私は額に手を当てて体温を測る。平熱であればその体勢のまま眠りに付く。奇妙な方法かもしれないが、それ以外の方法が私には思いつかないのだ。そして、殿下の体温が高く、少しでも熱があるときは、私は大慌てで医者から処方された薬を用意して、殿下にそれを召し上がっていただく。その後も、殿下が再び眠りに付かれるまで、私は根気強くその具合を見守る。
中央宮殿に仕えるようになってからの七年間、私はトゥーンクラモムにいくつも処方されるの薬の匂いと共に過ごしてきた。その匂いには、心地よいものもあれば、嗅いだことのないような不思議な匂いや珍しい匂いも混じっている。それらの薬の匂いは、どこか私の心に安堵を与え、静かに床に就かせてくれた。この薬から香る特別な匂いが、殿下をこれからもお守りしてくれるのだ——私はそう信じていた。