
特別編
第六章 殿下
第二話
「パッタ」
「はい」
殿下の寝室から聞こえてきた、主の疲れ果てた声に、私はすぐに返事をした。何か殿下の身に起きたのではないかと心配が募る。鼓動が速まり、落ち着きが失われていく。
なぜそんなにも殿下を心配するのか。それは、殿下が私にとって、まるで雲の上にいらっしゃるような存在だからである。それゆえ、殿下と二人きりでいるとき、私は敬意を込めて『トゥーンクラモム*』とお呼びしている。しかし、ある時その呼び方について、殿下からお叱りを受けたことがある。殿下はご自身が嫡子ではなく庶子であることを理由に『その呼び方は不適切だ』とおっしゃったのだ。
私は、文化や規律を誰よりも重んじて生きてきた。この一点だけは、たとえ殿下であろうと譲るわけにはいかなかった。
『殿下は私の頭の上に置かれなければならないお方*です。それなのに、なぜこの呼び方は許されないのでしょうか?』