
第五十四章
コルクノウゼン宮殿
「松宮殿の名前を、コルクノウゼン宮殿に変更しなきゃいけない日が来たかもね」
冬の時期が訪れたある日の午後、松宮殿の社でピンとじゃれていたアニン王女が、突然そんなことを口にした。
「アニンはどうして、そんなことを言うのですか?」翻訳業務を進めていたピンが作業の手を止めて、愛する人の純粋な目を見つめる。「私をからかおうとしているんでしょう?」
「そんなつもりはありませんわ」そう言うと、アニン王女は微笑む。「ただ、宮殿の周りを見てそう思ったんですよ。五年前、ピンさんが植えたコルクノウゼンの新芽は、もうあんなに大きくなって、良い香りと綺麗な白色を目立たせるようになりました。だから、近いうちに名前を変えようかなと」
「私は、今のままの方が好きですよ」翻訳の仕事への興味をまるで失ったピンは、微笑みを浮かべながら、アニン王女の肩に甘えるように身体を寄せた。「アニンは小さい頃から、松宮殿の絵を描いていたんですもの。忘れもしませんわ」
「忘れもしないって、何のことですか?」