第五十三章
愛しの姪
あれから五年後。
「ピンおばさん」
そんな風にピランティタのことを呼んだのは、アリンラダー・サウェタワリット。アナンタウット王子の長女であるその少女の一声は、ピランティタに自然と笑みを浮かばせた。今、ピランティタは、アリンラダーの髪を三つ編みにしている最中だが、少女は早く終わらないかと気持ちを先走らせ、足をぶらぶらと振り続けている。どうやら、目の前に見えるプリック姉さんとの駆けっこを待ちきれない様子だ。少女のぷっくりと丸い頬のすぐそばで、ピランティタは優しく囁いた。
「はい、なんでしょう」
「アリンの三つ編みは、まだ終わりませんか?」
ムスッとつまらなそうな表情を浮かべる可愛らしい少女を目の前にして、ピランティタは思わず笑みを零さずにはいられなかった。
「あともう少しですからね、アリンちゃん。もう一息で、可愛い三つ編みができあがりますよ」
ピランティタはそう言いながら、駄々をこねている少女の髪の毛に視線を移し、五年前のことを思い返した……このサウェタワリット宮に、レディ・パーラワティが子供を授かってから三ヶ月が経過したという吉報が届いたのは、叔母様から松宮殿で『半』永久的に生活することを正式に許されてから、しばらく経った頃のことだった。
レディ・パーラワティの吉報を聞いた人々は、ある二人を除いて全員が彼女に祝福の言葉を送った。その二人とは、太子様とアナンタウット王子である。太子様は、今後このサウェタワリット宮を受け継いでいく男の子を強く御所望されていた。一方、実父となる予定のアナンタウット王子は、子を授かる前から「アリンラダー」という名前をすでに用意しており、自身が愛情を注いで育てられたアニンラパット王女のような娘を心から望んでいたのだ。
そして、アナンタウット王子の願いは叶い、まるで同じ神様が施しを与えてくださったかのように、小さな頃のアニンラパット王女と瓜二つの、記念すべき第一子が誕生したのである。
アリンラダーは、サウェタワリット宮の皆から愛情を注がれて育った。少女は元気溌剌で、よく喋り、よく話し、それでいて賢く、すくすくと成長していった。おじい様とおばあ様は、まるで愛娘の幼い頃を見ているようだと、アリンを大層可愛がられていた。
不思議なことに、今年で五歳になる幼い少女は、母上よりもアニン叔母様にめっぽう懐いている。そんな少女の日常といえば、日中に、大学で講義をしているアニン叔母様の帰りを待つために、ピン叔母様とプリック姉さんの二人とお昼の時間を過ごしながら、時間を潰すことだった。
「さあ、もうできあがりましたよ」
ピランティタはソファから立ち上がり、アリンラダーの前に屈むと、ハンカチを取り出して額や頬を伝う汗を優しく拭ってあげた。子ども向けの童話の翻訳も担当していることが影響しているのか、それとも目の前のお転婆な少女が、自分の愛する人の幼い頃によく似ているからなのか、ピランティタはアリンラダーをとても大切に思っていた。
濃い色の瞳、高い鼻筋、健康的な色の唇、そして何と言っても、笑うとえくぼが浮かぶところまで。唯一違うのは、アニン王女の象徴とも言えるえくぼは両側の頬に浮かぶのに対して、アリンラダーのそれは右頬にのみ姿を表すことだった。
『もしアニンに娘ができたら、一人はアリンのような顔立ちで、もう一人はレディ・ピンのような顔立ちの子になるでしょうね』
アニンラパット王女が何気なく呟いた一言は、ピランティタの心の中に色褪せることなく残り続けている。その言葉は、現実には決して起こり得ない、仮定の話でしかない。でも——もし、もしも目の前にいるこの無邪気なアリンラダーが、本当に自分たちの娘であったなら——ピランティタはそのようにして、最愛の人と同じ想像を追いかけていた……。
もし、本当にそれが現実だったなら、どれだけ幸せなことだろうか……。