第四十四章
豊寿く
ある日を境に、私は悪夢をずっと見続けていた。
その夢の中では……。
黒装束に身を包んだアニンが、窓際に設置されたお気に入りの灰色のソファに足を組んで座っている。その姿は、灰色の空から雨が降り注ぐ、その場の薄暗い雰囲気と酷いくらいに調和していた。
真向かいにあるソファに腰を下ろすと、アニンの小さな身体は朝露のように薄く消えていき、しばらくすると、彼女が座っていた場所は虚無と化す……。私は絶望に打ちひしがれ、先ほどまでアニンが座っていたはずのソファの足元に膝を崩して突っ伏し、涙が枯れるほど大泣きする。この場面にたどり着くと、決まって私は息を切らしながら飛び起きるのだった。
やがて、現実世界に意識が戻ると……。
額に汗の粒がいくつも浮かんでいることに気づいて……そして次に、自分の頭を預けていた枕が濡れていることにも気づくのだ。そんな状態になってしまった私がやることはただ一つ。いるはずがないとわかっているのに、意味が無いと理解しているのに——隣で寝ているアニンの身体を引き寄せ、二人の間にある隙間を埋めて、アニンに私を強く抱きしめさせる......そんな妄想をして、自分を保ち続けていた。
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けれど、私の隣には誰もいない……。
つい最近までアニンがそばにいたことが嘘であったかのように、その空虚さは長く、重く、私の身にのしかかる。
今までの幸福な時間など幻であり、もとからそんな時間など無かったとでも言うのだろうか。
でも、実際のところ……。