第四十一章
報知
「パッタミカ王女が、妃殿下にお会いになりたいと言われています」
アリサー妃は愛おしいご氏族であるアナンタウット王子とアニンラパット王女とともに、来月末に執り行われる太子様の誕生式典について話をしていた。そんな最中、アリサー妃から多大な信頼を寄せられている使用人のブアが、彼女に声をかけてきた。
「ここまでお連れしなさい」
アリサー妃がおっしゃった『こちら』とは、西宮殿に設けられた非常に大きな書斎のことであり、大事な会議がある時に何度も使用されてきた部屋である。
「はい」
ブアはすぐに返事をし、パッタミカ王女を大急ぎで迎えに上がった。
「いつもなら、パッタミカおばさんが休日のこんな朝早くから私に会いに来ることなんてないのにね。ちょっと変だわ」
アリサー妃は長兄と娘にそう言葉を投げかけた。確かに母親の言う通り、普段あまり起こらないことなのかもしれないが、パッタミカ王女が朝早くから母親を訪ねてくることもあるだろうと、子どもたち二人はごく自然な風に考えていた。
だが、顔色が優れず気乗りしない様子で後ろを付いて歩くピンの姿を目にした二人は、さすがに何かが起こっているのだと感じ始め、パッタミカ王女が口を開くのを固唾をのんで見守っていた。
「妃殿下……」
パッタミカ王女とピンはアリサー妃に深々と頭を下げた。アリサー妃は笑顔でそのお辞儀を受け入れ、二人を豪華な書斎に招き入れると、椅子に座るよう促した。
書斎に一歩足を踏み入れた瞬間、パッタミカ王女とピンは固まって唖然とした。アリサー妃とアナンタウット王子がいらっしゃるとは思っていたが、そこには予想外にもアニン王女までいたのだ。
ピンは、アニンラパット王女の姿を盗み見するように視界に入れた。もう手の届かない存在となった彼女は、空色の模様が織り込まれた白を基調とするドレスをまとい、腰には黒の革帯を巻かれている。髪は結われておらず、自由を謳歌するようにそのまま垂れており、ハリのある愛おしい唇には深紅の口紅が引かれていた。彼女はソファに座り、母親の隣で足を組んでいる。その周囲に漂う強い魅力は、彼女がピンにとってもう手の届かない神々しい存在であることを、改めて痛感させた。
だが、その手の届きようのない存在こそが、ピランティタが喉から手が出るほど欲していたものだった……。
「何か起きたのかい、パッタミカや。そんなに焦ってどうしたんだい?」