第三十三章
波の泡
プリディピロム宮殿の最上階の部屋の窓からは、西にある小宮殿が見え、その周囲にはこの地域特有の熱帯植物で彩られた美しい庭園が広がっていた。
アニン王女の見下ろす窓の外には、一組の男性と女性がはっきりと映り込んできた……。
貴公子グアキティとレディ・ピランティタの姿が、視線の先にはっきりと。
二人の会話は、気が滅入るほどしつこく長引いていた。ピンが話を切り上げ、宮殿の前側へと歩き出そうとすると、グアが彼女の行く手を遮り、もう何度目かも分からない新しい話題を持ち出す。アニン王女も耳を傾けてはいたが、会話の核心を掴むことはできず、そのやり取りに苛立ちを感じていた。
その光景は、アニン王女に初めての感情をもたらした。どう転んでも、貴公子グアの方が自分よりもレディ・ピンを手中に収める可能性がはるかに高いこと、そして周囲からの承認を得ることができる人物であるという現実を突きつけられたのだ。アノン王子やパッタミカ王女がグアキティにどれほど深い信頼を置いているのか、アニン王女はこれまで意識的に目を背けてきた。
グアが男性であることは当然のこととして、彼以上にピンさんと釣り合う人物がいないと周囲が考えていることこそが、アニン王女にとって一番の問題だった。
アニン王女は窓際の床に腰を下ろし、下の階で繰り広げられる情景をじっと見つめていた。すると、まるで救世主のようにプリックが颯爽と現れ、魔物に囚われた姫のようなピンの手を取って、彼女を宮殿内へと救い出したのだ。アニン王女は額を窓枠に押し付けると、最上階の一人きりの部屋から、独り取り残されたグアさんの姿を静かに見つめ続けた。
ここまで馬鹿にされると、さすがに大人しい青年もはらわたが煮えくり返っているのだろう。彼は庭に植えられた月橘の藪に向かって、長い足を大きく振り回し、いくつかの花弁が乱れ落ちるのが見えた。
『鬱憤』
アニン王女が宮殿の最上階から見下ろす彼の姿は、彼女の頭の中で描いていた彼の姿とそれほど違いはなかった。甘い言葉を口にする、親しみやすい優しい顔は、一体どこに消えてしまったのだろうか。
そんな状況からあまり時間が経たないうちに、彼は大きく深呼吸をし、微かに舞踏の音楽が漏れ聞こえてくる大広間の方へと向かってその場を去って行った。