第三十章
帰国
ピランティタは今、誰かの腕の中に居る。彼女を抱きしめるその人は、肩の上に顎を置き、甘えるような仕草を見せる。半身に回された腕の、上腕のあたりを強く握り締める。そうすることで、彼女は返事をすると同時に、これが夢ではないことを確かめている。
何をどうすればいいのか、彼女自分も混乱している様子だった……。
待ちに待ちわびた待望の瞬間が訪れ、ピンは、これまで努力してきた自分への褒美として、その幸せに浸ることを許した。しかし、それと同時に、自分に明確な帰国日程を伝えず、散々待ちわび、苦悩を重ねた日々を馬鹿にするような仕打ちをしてきたどこかの誰かさんに対して、怒りを感じてもいた。
対照的な二つの気持ちは、これでもかと言うほどに混ざり合い、彼女自身でさえも理解できない感情へと変化していく。
「ピンさん……」
「……」
「泣いているんですか?」
アニン王女は、腕の中にいる小柄な女性が嗚咽を堪え、震えていることに気づくと、すぐにそう問いかけた……。