第三十一章
赤葡萄酒
「酔ってるんじゃないですか、アニン?」
化粧台の前のアニン王女に対して、ピンは、とても優しげな声色で囁いた。耳飾りを取ろうとしたアニン王女が、鏡越しのピンと視線を交差させる。
「今のアニンが泥酔した人に見えるのかしら、ピンさん?」ピンに笑いかけながら、アニン王女は優しく返答する。
「見えるかどうかと言われれば、見えるような気がするわ」
ピンの小さな手が、耳の後ろのあたりにそっと触れる。その手は長く滑らかな首を伝い、アニン王女の華奢な胸まで到着すると、そこで立ち止まり、曖昧に愛撫を始めようとする。
「見えないと言われれば、見えませんわ」
「結局どっちなんですか、ピンさん?」アニン王女は微笑みながら返事をすると、また耳飾りを取る作業に戻った。「本当のところ、アニンは酔っていると思いますか?」
「アニンの頬はとても赤いですし」たっぷりの愛情を腕に込めて、ピンはアニン王女を抱きしめる。「目元も虚ろで、お酒を飲んだ人のようです」
アニン王女はまた微笑むと、ピンの手首にキスをして、アナン王子の名前を挙げた。
「アナンお兄様のせいだわ。いつまで経っても終わりが見えないくらい、アニンのグラスに赤ワインを注ぎ続けたんだもの」
「誰のせいでもないわ、アニン」ピンはアニン王女を愛おしく想って、その赤い頬に大胆なキスをした。「酒豪のような飲みっぷりだったじゃない」
ピンは哀れみの表情を浮かべると、一度、アニン王女のもとを離れ、小さな金のお盆が置かれた書机の方まで向かう。盆の中でぬるま湯に浸かる、一枚の布を取り出し、水気を切ると、また寝台の方へと戻った。
「アニン、こっちに来て」
ピンからの呼びかけを受け、アニン王女は耳飾りと首飾りを慎重にベルベットの箱にしまうと、すぐさま立ち上がり、ピンのそばに腰を落とした。
「少し顔を拭きましょうか」ピンは温かい布に優しさを込めながら、額、両頬、首、そして両肩へと、順番に水滴を拭っていく。その温かい布を通じて、ピンの気持ちは、アニン王女へと伝わっていく。
「アニンの口からは、間違いなくワインの匂いがしますわ」
空いた方の手でアニン王女の身体を抱き寄せると、ピンは自らのすらりと伸びた鼻筋を、アニン王女の鼻先へ煽るように擦り付ける。耐えきれなくなったアニン王女は、ピンの唇へお返しとばかりに口を押し付けた。
まるで永遠の時間の中へと落ちていくような、温かく、長く、強い安堵感。
「私の口はどうですか?」ピンの唇から離れると、アニン王女はすぐさま問いかける。「まだワインの匂いがしますか?」
「ワインはとても渋い味がします……」
ピンは目の前の背の高い女性に優しく微笑みかけると、高価な深紅の口紅が塗られた唇の下のあたりを、指先でなぞる。
「でも、アニンの舌はとても甘い味がするわ……」