第二十章
日記
ピンはアニン王女の元で朝を迎えると決心する。病人を放って一人で寝かせるなど、ましてやアニン王女とあらばそんなこと出来る訳もないが、それ以上に思い詰めている事があった。病気で弱っていたアニン王女から問われたことに対し自分が浅はかな回答をしたことである。『私は分からない……どんな風にアニンを愛しているのか』
ピンは、その否定とも取れなくもない薄っぺらい解答が、アニン王女を前とは違う人にしてしまうのではないかと恐れを感じていた。不安は先へ先へと止まることなく進行し、こんなことまで考えるようになってしまっていた。もし、アニン王女のことを少しでも見放せば、今まで願い、掴もうと想いを馳せていた身体が目の前で瞬時に消え去ってしまうのではないかと。
ピンはそれだけを心配していた……。
それ故、ピンは昨晩、自分の腿の上で彼女の手を握りながら寝ているアニン王女の顔を眺め続け、眠りに就くことは無かった。そして、残った手で、心配からアニン王女の額に触れ続けていた。まるでアニン王女が難病にかかり、もう目覚めてくることは無いというような重々しい表情をしていた。
今日、大学で対応をしなければならない課題などが無ければ、ピンがアニン王女の寝室で慌てるようなことはなかったであろう。彼女は松宮殿を去る前にプリックに食事や身の回りのお世話などの念押しをし、その様子はこれから数日間こちらに来ないのかと思わせるほどであった。
大学生最後の年となる講義の登録を追捲るように終えた後、放課後の時間潰しの為に大学周辺にある小さな市場を歩き回らないかと親友のスニーとチャダーが誘って来た。出来る限り速くアニン王女の元へと帰りたかったピンはそれを断り、帰路についた。
しかし、ピンが蓮宮に足を踏み入れるとプリックがかしこまって座りながら彼女の帰りを待っている姿を目撃した。
「どういうこと、プリック。アニン王女から肌身離れずしっかりとお世話をしなさいと口酸っぱくあれだけ言ったじゃない。何でここにあなたがいるのよ」