第十八章
未だ降り続ける雨
雨は未だに降り続けている……しかし、何はどうあれ、アニン王女の食事や菓子などを用意しなければならないことを理由に挙げ、ピンは夜が明けるのを待たずに雨の中を歩き蓮宮に戻った。
当初、アニン王女は何度も留まるよう言っていたが、ピンの帰るという意思は微動だにせず、アニン王女は何も言わなくなり、止めることも無くなった。「傘を持って、ピンさんを送らせてくださいね」アニン王女は客座敷の裏手に仕舞っていた大きな傘を持ってきた。
「私は一人でも行けます。アニンに迷惑をかけたくないので」ピンは何かを恐れるように俯き、口元を一直線にして、固く閉じた。
眉を困ったように下げつつも、鋭い目元はピンの顔を見つめ、アニン王女はしばらく考える。最終的に、根負けしたように大きな溜息をついた。
「そしたら、せめて私にテラスまで見送りに行かせて」心地良いアニン王女の声色は、雨音よりもか細くなっていた。ピンはそんな悲しげな表情を少し見た後、視界をまた別へと向ける。
「はい」
アニン王女は微笑んだが、どこか疲れを感じているように見える。その後、ピンを連れて宮殿の入り口へ向かう。宮殿への入口の扉を開けると、強烈な風に呷られ小さくなった雨粒が、その風に乗って二人を襲った。冷たい空気に耐え切れず、ピンは自分の手で腕をさすり温かさを求める。
アニン王女は傘を広げピンへ手渡すと、ピンは丸い目でアニン王女のすっきりとした目を見つめる。しばらくそうすると、気が済んだのか、アニン王女のふっくらとした唇に視線を動かす。
「ピンさん、気をつけて歩いてくださいね」