第十九章
熱によるもの
ピンの心中は、アニン王女の容体のことで埋め尽くされていた。アニン王女が戻られる明くる日なんて待たず、今すぐにでもお見舞いに行ってしまいそうな自分の心と体をどうにか自制している。
今を流れる刹那の瞬間は、時の狭間に置いて行かれたかのように、ゆっくりと動いているように思える。
どうやって明日をじっと待てというのか……。
ピンは寝室で座っては立ってを繰り返していた。気が気でない状態が限界を達したからか、ピンは夜更けに松宮殿を訪れることを決心する。
この時間帯、松宮の正門は間違いなく閉まっている。しかし、そんなことは関係ない。松宮殿にいつでも入ることの出来る彼女は正門を避け、台盤所とプリックの部屋を繋ぐ扉へ歩みを進める。
台盤所に設置された窓から中を覗くと、まだ明かりが付いていることが分かった。そこにはプリックが何かを熱心に作っている姿が見えた。鍵を使って開けよるつもりだったが、戸を叩くことにした。
「レディ・ピンだったのですか。私めは本当にびっくりしました」
「私よ。プリックは誰だと思ったのよ」プリックに対し、ほんの冗談を言うピンから焦りなどは感じなかった。しかし、数日間足を踏み入れることがなかった松宮殿内の香りが鼻から身体中を駆け巡ると、鼓動が徐々に乱れだしていくのが分かった。
「だって、レディ・ピンは今までこのような時間にこちらに来られる事は無かったじゃないですか。だから、私はてっきり……」
「てっきり……」
「幽霊が戸を叩いて、私めを連れて行こうとしていたのかと思ったのですよ」プリックは慌てたように辺りを見渡す。
「大袈裟ね、プリック」そんなプリックに、ピンは冷たい視線を向ける。相変わらず水と油の二人である。
「それはそれとして、何でレディ・ピンはこちらに来られたのですか」