第十六章
テニスコート
プリックの丸い焦げ茶色の目は何度も瞬きを繰り返しており、自分が目の当たりにしている光景が本当に現実なのかと驚きを隠せない様子だ。幼かった頃に母親が寝かしつける為に話していた天国の情景なのではないかと、戸惑いを感じている。
プリックには……自分の美しいな主達が、空がくっきりと見える良い天気の中でテニスウェアに身を包み、深緑のコートの上で動いているその様は、神と天使が地上に舞い降り、互いにじゃれているような神々しい光景に見えていた。
アナン王子は誰よりも格式的な服装をされており、長袖のポロシャツに白のスラックスパンツを着ての参加である。その隣には勿論、奥方であるレディ・パーラワティがいらっしゃり、撫子色のノースリーブと膝元まで届かない白のプリーツスカートを着用し、さらに梅重色のヘアバンドを付け、爽やかさで溢れる佇まいまいである。
アノン王子はというと、兄と違って少しカジュアルな服装で、長袖のポロシャツは変わらず、白のショートパンツを着て運動靴を履いている。横には誰かさんの予想通り、貴公子グアが立っていた。アノン王子と全く同じ服装に身を包んでいて、双子なのではないかと錯覚してしまう。
もう一組はというと、ピンとウアンファーの二人となる。こちらの二人も偶然似たような服装での参加で、上は半袖のポロシャツ、下は膝元まで届いている白のプリーツスカートという服装で、タイの淑女らしい清楚な印象である。
そのメンバーの中で最も異彩を放つのは、疑う余地も無く、泣く子も黙るプリックにとって自慢の主であるアニン王女であった。空色のポロシャツに、太ももが全て露になるほどのミニパンツを履き、見る者すべての視線を奪い去っていく。兄は二人揃って、同時に頭を抱えてしまう。
そしてプリックはというと、本日はアニン王女から帰国日にお土産として頂いた白いテニス用のロングパンツを纏っている。我ながら罪深い美貌、と本人は思っている。
『私めはテニスの経験などはございません』プリックは、このロングパンツをアニン王女から貰ったあの日にこう言っていたことをはっきりと覚えている。
『私は決めているのよ。この休み期間中、プリックにテニスが出来るようになるようにしっかりと教えるって』アニン王女はいつもと変わらず優しそうにプリックを可愛がる。
『そしたら、出来るようになった後にこの服を着用した方が良いのではないでしょうか』プリックは悲しそうな表情を見せる。