第十五章
来賓
アナン王子の婚礼の儀は、サワェタワリットの王族として恥じぬ形で無事に幕を閉じた。早朝、神聖な水でのお清めから慎ましく始まり、日も暮れる頃には祝賀会が開かれ、沢山の人が参列した。その便りはプラナコーン*全体を包み、しばらく人々の間で格好の話題となった。
話題の一つとして話に上がったのは、何よりも執り行われた式場の設計や規模感であろう。成功を収めた要因は、第一王子が直々に現場を視察し、足りない点の指摘や付け加えを行い、自身の身にそぐわぬ形に成らぬよう徹底的に準備したことが挙げられる。
勿論、ご来場された顔ぶれも地位や身分が高い方ばかりで埋め尽くされ、各々がしっかりとその儀を祝おうと純粋な気持ちでいらっしゃった。
そして、高潔で立派そうなアナンタウット王子と流行りの花嫁衣装に身を包んだレディ・パーラワティは、東男に京女ということわざ以上に、お似合いだといわれているのである……。
しかし、最も人々の心を掻っ攫っていった華々しい話題は、第一王子の妹君に当たるアニン王女の麗しい身なりについてであった……。
主役は別にいるのだが……周りに『ウアンファーちゃん』と親しまれて呼ばれる彼女と、そのご両親であるチェンマイの大地主様、そして、ダラライ王女は、もしこの儀に参列されなかったら、その事を知らなかったであろう。世間がアニン王女のことでこんなにも盛り上がりを見せているのは、来賓の方々が太子様とアリサー妃のご機嫌を取る為に、いささか誇張しすぎなのではないかとウアンファーは疑っていた。
なぜなら、彼女の記憶に残るアニン王女といえば、確かにお顔は言うまでもなく美しい方だが、それ以外は、と悩まずにはいられない御方だからである。おしとやかな王女とは対極にいるお転婆な王女という印象の方が強く、傾国傾城と言われるほどの御方なのか、と考えを膨らませていた。
しかし、それもウアンファーがその目でアニン王女の姿を目にするまでの記憶や考えだけでしかない……。
そして、彼女は知ることとなった。世間が盛り上がりを見せるアニン王女の話は誇張などではなく、本当のことで、ましてや世間で出回っている話などはアニン王女の麗しさを微塵も映し出せていないものだと思わせてしまうほどであった。
年下の従妹に当たるアニン王女は、白いレースの上衣と淡い灰色のスカートを身につけ、朝の行事に参加していた。その姿はとても美しく、ウアンファーは気づかぬ内に釘付けになってしまっていた。
記憶の中の描写が塗り替えられていく。
そう、目の前にいる同じ人によって……。
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