シークレット・オブ・アス|第二十九章 噂が広まる【支援者先行公開】
- ミーナム
- 7月27日
- 読了時間: 24分

シークレット・オブ・アス 第二十九章 噂が広まる
「セレブ美人女医にスキャンダル発覚! 甘いデート写真流出、美女とロマンチックな街を巡る」
「注目の的となっている美貌の女医、ファーラダー・ターナヌサック医師。イタリアのベニスでの甘いツーショット写真が流出! 隣にいるのはイケメン男性ではなく、美しい女性だった。単なる親しい友人とは言えないムード。しかも、その女性の名前を聞けば、誰もが『ああ、なるほど!』とうなずくこと間違いなし!」
新たな一日の朝を騒がせる衝撃的な見出しと共に公開された写真。写真の中にいるのが、今まさに話題のラダー本人であることは否定しようがない。だが、隣にいる女性ははっきり写っていなくても、ファンや身近な人ならば誰もがその正体をすぐに見抜いてしまう。その女性とは、新進気鋭の女優サニターダー・ポンピパットなのだから。
スージーはスマートフォンをリビングのテーブルに置いた。昨夜の時点で今朝何が起こるか知っていたとはいえ、実際にニュースとして確認するとやはりショックを受けてしまう。もしラダー先生から事前に電話で今日の出来事を知らされていなかったら、きっともっと驚いていただろう。ニュースが伝わるスピードはタイの3G回線よりも遥かに速く、今も仕事用の携帯電話が鳴りっぱなしで、ついに彼女はスマホをサンドイッチみたいにソファのクッションに挟み込んでしまった。
今ごろ記者たちや知人は、真相を確かめようと必死になって電話をかけまくっているに違いない。一部のファンは写真を拡大し、二人の女性が食事をする様子が映ったガラスの反射を分析し、ますます論争を加熱させている。ファーラダー先生の相手が、彼女が担当している女優であることは間違いないというのだ。
さらに一部のファンは、二人の女性の出会いから遡って調べ始めていた。ファーラダー先生がサニターダー主演ドラマのゲストとして出演したときから、セントキング病院の皮膚科クリニックの広告撮影での共演まで。これらがすべてサニターダーへと注目を集める燃料になっている。
「スージーねえさん、ニュース見ましたか!」
「落ち着いて、アーンちゃん」
「これで落ち着けるわけないですよ! センセイ、こんなニュース出たら困りますよ!」
「落ち着いて、アーンちゃん」
「記者は私って分かってるくせに、なんで名前を書かないんですか! こんな書き方じゃセンセイに迷惑がかかるじゃないですか。センセイのお仕事だってあるのに」自分の女優としてのイメージを気にせず、流出した写真が自身にとって何十倍もの損害をもたらす可能性よりも、先生のことばかりを心配するアーンちゃんに、スージーは思わず微笑んだ。彼女が真っ先に考えるのは、やはり天使のようなファーラダー先生のことなのだ。
「これはファーラダー先生が自分から仕掛けたことなのよ、アーンちゃん」
「えっ、なんですか、スージーねえさん!」
「聞き間違いじゃないわ。先生はわざとやったのよ」アーンちゃんが驚いていることはよく分かる。スージー自身も初めは理解できなかったのだ。なぜ天使のようなファーラダー先生が、自らこんなリスクのあるニュースを流そうとするのか。
「センセイは一体なにを考えているの?」小さくつぶやいたその言葉は、まるでスージー姉さんではなく自分自身に問いかけるかのようだった。スージーだって先生の本当の意図は理解できていない。
女優は自分のスマホに送られてきたメッセージを再び見つめた。当初はセンセイがなぜ今日は部屋から出ないで休むよう指示したのか分からなかったが、このニュースを見て初めて理解した。なぜセンセイが、自分とスージーねえさんだけをこのコンドミニアムにとどめておこうとしたのかを。
センセイは、センセイの家族が不快に思うだろうということを十分知った上で、あえてこんなニュースになるよう仕向けた。それだけじゃない。社会的な体面や仕事においても、きっと質問攻めになるに違いない。
しかし、プライベート携帯の着信音が鳴り響き、女優は一時的に思考を遮られた。画面には、自分の父親からの着信であることが表示されている。
「将軍から? アーンちゃん」