シークレット・オブ・アス｜第十四章 計り知れない心【支援者先行公開】
- ミーナム
- 5月31日
- 読了時間: 13分
シークレット・オブ・アス 第十四章 計り知れない心
朝の四時半！ 真夜中に電話で叩き起こされただけでも頭が痛いってのに、電話の向こうから伝えられたのは、自分が担当するスターがまた気を失ったという話。スージーは今夜になって初めて「犬みたいにハァハァ息をする」っていう状況がどんな感じか身をもって知った。こんなときに服装やヘアメイクなんて整えてられるわけがないでしょ！ しかも、焦りすぎて車を運転することすら頭から抜け落ちて、猛ダッシュでコンドミニアムを飛び出し、タクシーを捕まえる始末。だから今、有名マネージャーの威厳なんてどこにも残ってないってわけ。
はっ！ 犬みたいに駆け込んできたスージーは、病室の扉を開けるなり思わずブレーキをかけてしまった。そこには思わず微笑んでしまうような光景があった。まさか、天使のセンセイがベッドの横に座り、意識を失った患者の手を優しく握っているなんて、誰が想像できるだろう？ 実際に目の前で見なければ絶対に信じなかった。それにしても、どうして先生がアーンちゃんのそばにいるわけ？ 病院がスージーに連絡したように先生にも連絡したとか？ いや、それはないはず。患者の緊急連絡先にはスージーの名前しか記入していないのだから。
その美しい光景に、スージーは思わずお気に入りの高級バッグを床に落としそうになった。天使の先生は、意識の戻らない患者の手をゆっくりと頬に当て、やがて自分の唇へとそっと運んだ。先生の表情は見えなかったけれど、スージーは確信できた。その仕草に込められたのは限りない優しさだと。じゃなきゃ、こんなことするわけないもの。だけど先生、どうしてアーンが意識のあるときにそれを見せてくれないの？ 意識が戻ると、お互いに意地を張り合ってばかりで、真ん中に立たされたスージーは二人とも無人島に監禁してやりたくなるくらい困ってるのよ？
泥棒みたいにこっそりと！ 今の自分にぴったりな表現はそれしかなかった。でもね、いつまでもぼーっと二人を眺めているわけにもいかないのよ。足がつったら誰が助けてくれるの？ 見たところ『天使の先生』は誰かが入ってきたことにもまったく気づいてない様子。スージーは先生に優しいモードのままでいてもらえるように、慎重に、つま先立ちで静かにソファまで移動した。
「先生、ごゆっくり。スージーはちょっと携帯でニュース見てるだけですから」こっそりアーンのために動画でも撮ろうかと思っていたのに、天使の先生に見つめられて冷や汗が出てきた。
「ソムチャーイさんが来てくれてよかったです」
「スージーですよ、先生。何回も言ってるでしょ、スージーって呼んでください」まったくもう！ 本名で呼ばないでって何度言ったら覚えてくれるのよ。
「はい、スージーさん。あなたが来てくれたなら安心して仕事に戻れます」
「こんな、朝の四時半に仕事ですか？」
「ええ」空返事をする先生の態度に、スージーはすぐにそれが嘘だと気づいた。もしかして、スージーを呼び出すよう病院側に指示を出したのは先生本人？ 夜明けまで数時間しかないこんな時間帯に。
「先生、誤解しないでくださいね。スージーは先生とアーンの間に何があったのか全然知らないけれど、アーンが芸能界に入ってスージーが面倒を見ている間、彼女に誰かがいたことなんて一度もないですからね！」相手に割り込ませないよう一息で言い切ったせいで、最後は息が切れてしまった。
ラダーは黙ったままだった。でも、その手は相変わらず静かに眠り続ける患者の手を離そうとはしない。柔らかなその手にゆっくりと唇を寄せる。目の前の女性が、かつて自分に「もう愛していない」と告げた、その人であることを自分自身に言い聞かせるように。
あの時、彼女は理由を尋ね、私たち二人にもう一度チャンスを求めた。二人の間にまだ愛情が残っていると思ったから。でも、戻ってきたのは拒絶の言葉と、彼女にとってはあまりに痛々しい光景だった。この冷酷な女性が、グループの仲間である金髪の男に抱きしめられ、キスをしている光景。
あの日の痛みはあまりに強烈で、彼女はその場で崩れ落ちそうになった。かつて二人の愛の巣だったその部屋から抜け出すのは、とても難しかった。でも結局、医者である彼女は何とか自分自身を部屋の外へと導き、自室に戻って涙に暮れた。
その時の苦しい感情を、ラダーは今でも鮮明に覚えている。
