シークレット・オブ・アス|第十二章 広告撮影【支援者先行公開】
- ミーナム
- 5月24日
- 読了時間: 14分

シークレット・オブ・アス 第十二章 広告撮影
コン、コン、コン! 「先生、コーヒーです」芳ばしい香りのコーヒーが差し出された。今日はこれが二杯目だ。看護師の彼女は少し驚いたようだった。なぜなら、ラダーが普段飲むのは、朝の一杯だけと決まっていたから。
「何か?」
「コーヒー以外に何か召し上がりますか?」午後一時という時間にも関わらず二杯目のコーヒーに手を伸ばすラダーを見て、他に何か興味があるかもしれないと思い、看護師は他のメニューを提案してみた。
「今日の午後、私が診察するのはあと何人?」
「午後はあとお一人だけです。先生は午後二時から広告の撮影の予定が入っています」看護師の女性は、ラダーの個室のドアを閉めた。ラダーの言葉が、職務範囲を超えたことをしない方が良いことをうまく伝えているようだ。
コーヒーのカップはまだ温かさを保っていたが、ラダーはそれが冷めて味が変わることにも興味がないようだった。いつものようにコーヒーを飲むこともせず、手にした書類に目を落としたままだ。
広告の撮影の準備や現場で行うべきことについて、彼女は文字一つ一つを丁寧に読み、文章を覚えてしまうほど繰り返した。しかし、ラダーがいまだに無表情で時折ため息をつくのは、ある一つのことが頭から離れないからだろう。今日、一緒に仕事をすることになるキャストの女性のことが……。
あの夜の、あの冷たい女が見せた涙と泣き声が今も脳裏から離れない。もう三晩も睡眠薬に頼っている。このままでは体調が日に日に悪くなってしまうだろう。だが、あの女のことを考えないようにすればするほど、その姿はますます鮮明になっていく。
「簡単に忘れてしまえば、簡単に愛をやめられる」なんて言ったのは誰だろう? 本当にそんなことが可能なら、世間にはいつまでも未練がましく愛を求める人間が溢れていたりはしないはずだ。一年近くも全てを忘れようと努力し、忙しくして時間を埋めても、心は一度もあの女を愛した記憶を消してくれなかった。
別れを告げられた日、泣きながら理由を尋ねている自分の姿が何度も夢に現れては悪夢に苦しめられる。仕事で経験を積んで、自分を成長させようとしてきたのに、恋人は金髪の男を選んで私を捨てて去った。あの日の言葉も行動も、許しを乞い、必死で弁明を試みたことさえ全て覚えている。だが、返ってきたのは無情で空虚な瞳だけ。その瞳が心に深い傷を刻みつけ、立っていることさえままならないほどだった。
(なぜまた再会してしまうの? やっと私が立ち直ろうとしている時に)
心の傷は少しずつかさぶたになりかけていたが、偶然が再び二人を引き合わせることで、様々な感情が次々に蘇り、時にはまるで傷口をナイフで何度も切り裂かれるような痛みが走る。この時間の流れは、あの女への感情を少しも薄れさせてはくれなかった。
頭では「もう愛さない、冷たくなれ」と自分に言い聞かせるのに、
心は決してこの愛を消し去ってはくれないのだ。