【4 Elements】アース|第六章「きらめく花嫁」【支援者先行公開】
- 6月21日
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小説『フォーエレメンツ:アース』 第六章 きらめく花嫁
「すごいですね、ローズさん。あんなふうに言い返して、ワスポンさんをぎゃふんと言わせちゃうなんて。きっと面目丸潰れで、慌てて農園に引き揚げていったんでしょうね」
「いえいえ、ロムさん。ディンお姉さんに比べたら、わたしなんて何もしてないですよ」
ローズは謙遜しながらも、我を忘れてあんなことをしてしまったのは、褒められるようなことではないと思っていた。ディンが自分のためにしてくれたことに比べれば、自分がしたことなどとても及ばない。だからこそ、自分に優しくしてくれる人を少しでも守りたかっただけなのだ。
ワスポンに対して、目上の人への礼儀など顧みずに啖呵を切ったのも同じ理由だ。タイに戻ってからずっと自分につきまとい、脅してきたのはワスポンの息子であるワスなのだ。ディンがそのために手を差し伸べなければならなくなったというのに、親のしつけがなっていないのは一体どちらなのか。それがディンであるはずがないと、ローズは確信していた。
「でも、ローズさんが前に出てくれなかったら、ディンねえだけじゃマハッタナコン家の人たちに太刀打ちできなかったかもしれません。あたしは横で聞いてるだけでもぞっとしましたもん。ディンねえがやり返せないんじゃないかって」
「ディンお姉さん、大丈夫ですか? ディンお姉さんっ!」
「あ……はい、大丈夫ですよ」
ディンは混乱した思考の海から、はっと我に返った。いつの間にか放心していたらしく、ローズに繰り返し名前を呼ばれて、ようやく意識が戻ってきた。ワスポンさんの前であんなにも近くに寄り添い、有無を言わさぬ態度を見せていたローズが、すでに離れていたことにもそのとき初めて気づいた。
「でも、ディンねえもすごかったですよ。ワスポンさんにあれだけ長く応対した上に、お見送りのワイもしなければお別れの挨拶もしないなんて、なかなかの強情っぷりです」
色白の顔の持ち主は、ロムの褒め言葉を否定したかった。本当は、すべてが想定外だったのだ。ワスポンに対して挑発的に立ち向かうつもりなど、最初からなかった。
石のように固まってしまい、さっきまで上の空だったのは、おそらくローズの不意打ちのような振る舞いのせいだ。あの甘く親密な距離感に頭が真っ白になった上に、ローズは愛していると言い、結婚したいとまで口にしたのだ。自分を守るためにそう言っただけだとわかっていても、動揺を抑えることなどできなかった。
「でも、あの人たち、こんなことで引き下がるとは思えません。ワスポンさんの思惑はワスさんよりずっと読みにくい。ディンお姉さん、わたしに約束してください。これからは今まで以上に気をつけるって」
「はい、約束します」
「わたしは弱くて、自分の身も守れなくて、ディンお姉さんに迷惑をかけてしまうけれど……でも、わたしもディンお姉さんを守ります。誰にもディンお姉さんを傷つけさせない。約束します」
ロムは振り返り、横で何事もないかのようにひっそり立っていたファイの肘をつついた。そしてうなずきながら目配せして、長姉の様子を見てごらんと促した。偽装結婚の計画を思いつき、首謀者となったのはロムだったが、必要以上に互いを気遣い、守り合うと誓い合うこの展開は、おそらく当初の計画のどこにもなかったはずだ。
ローズが心配そうにディンの手をそっと握り、真心のこもった約束を口にした後の彼女の表情は――どう反応していいかわからないといった風で、手のやり場に困っているようだった。
「ファイ、認めてもいいよ」
「え?」
「ディンねえさんとローズさんの結婚、ファイは認めるって言ってるの」
「ありがとう、ファイ。わかってくれて」
「それに、ローズさんのことも素直に受け入れるから」
「……」
一体何がファイの心を変え、自分を受け入れる気にさせたのだろう。ワーティンワニット家の末っ子が向けてきた、あの初めての笑顔は本当に心からのものなのだろうか。心からと言い切れるかはわからないけれど、ローズはファイに笑顔を向けられて、少なからず背筋がぞくりとしたのは確かだった。
「ローズの姉貴 」
「え? ファイさん、わたしのこと?」


