【4 Elements】アース|第五章「正式に開戦」【支援者先行公開】
- 6月20日
- 読了時間: 22分

小説『フォーエレメンツ:アース』 第五章 正式に開戦
「ローズちゃん、この方はナームさんよ。ナーム、こちらがローズちゃんね」
「はじめまして、ナームさん」
新しい一日の午後は、予想を超える展開で幕を開けた。もうひとりの大切な客人がセンラック農園を訪れたのだ。ディンに会いに来たその人を、もはやこの状況から逃げられなくなったローズも一緒に迎えなければならなかった。昨夜の大騒動のあと、朝からずっとディンを避け続けていたローズだったが、逃げ切ることはできなかった。ディンがモッデーンを遣いに出して、みんなで話し合おうと呼び寄せたのだ。
昨夜は一睡もできなかった。考えるより先に口から飛び出してしまったあの宣言——しかも、ディンだけでなく、部下のケーオさんもしっかり両耳で聞いていて、いつでもご主人のために証人になれる状態だ。ディンとできるだけ早く結婚したい、と口走ってしまったあの瞬間を。
自分でも、なぜあんなに血が上って、何も考えずに言ってしまったのかわからない。一日中ずっと悩んで迷い続けていたはずだった。ロムさんに話を聞いてもらい、その理由にも納得したはずなのに、状況は何も明確になっていなかった。
なのに、たった数秒で結婚を承諾し、自分をディンに縛りつけてしまった。しかもケーオさんはわたしたちのことを喜んでくれて、式の準備を精一杯手伝うと名乗り出てくれた。そして、ケーオさんはすぐにその場を離れ、農園中にこの吉報を広めに行ったのだ。作業長であるクラーの娘だけに、止める間もなかった。
もしディンに向かって「さっきのは何かに取り憑かれて言っただけ!」と叫んだとして、信じてもらえるだろうか。結婚を承諾して、しかも身体を震わせるほど結婚したいと訴えたのに。そんなことを言えば、気まぐれで言うことがころころ変わる人間だと思われるだけだ。
かといって、何も言わなければ、モッデーンに「軽い女」と説教したくせに自分がそうなってしまうじゃない!
「はじめまして。ローズさんですよね、ディンお姉さまが結婚するとおっしゃっていた方」
「そう、昨夜電話で相談した相手よ」
「ディンお姉さんが昨夜ナームさんに電話で相談されたんですか?」
「ええ。ローズちゃんがなるべく早く結婚したいって言ってくれたあと、どうしていいかわからなくなって。ローズちゃんと別れてからロムを叩き起こして聞いてみたんだけど、ロムも何もわからなくて助けにならなかったの」
ディンは昨夜の顛末を語った。ローズから予想外の——結婚を承諾するという、しかもなるべく早くという答えを受け取ったあと、ほとんど休む暇もなく走り回ったのだと。結婚の経験など一度もないディンにとって、何もかもが手探りだった。だからもっと経験がありそうなロムに助けを求めた。
きょうだい四人の中で一番モテるのはロムだ。大勢の人が寄ってくるなら、結婚の計画を立てたり将来の話をしたりした経験もあるだろう。そもそもこの作戦を考えたのもロムだし。
ところがロムは、そんなことは考えたこともないと言う。結局、叔母のナームに電話で相談したところ、睡眠時間を邪魔されたと盛大に文句を言われた。八時間寝ないと仕事に支障が出るのだと。
「ローズさんがこんなに急ぐとは、ロムも思いませんでした。ディンねえったら興奮してどうしていいかわからなくなって、もう大慌てだったんですよ」
「ロムさん、あのですね、結婚の件はわたしが説明できるんですけど、ディンお姉さんとの結婚って——」
「私がリストを作ったわ。最短で準備すれば、一週間以内に式を挙げられるはずよ」
ローズがもごもごと言い淀み、言いたいことをなかなか口に出せずにいるのを見かねたのだろう。ノートに何かをまとめながら、読みやすくも丁寧な字で書き記していたナームが、眼鏡のフレームをくいと上げて考え込むように間を取ったあと、詳細と段取りに自信を持った口調で姉に告げた。
「ローズさん、心配しないでください。ロムが保証します、きっと素敵な式になりますよ。ナームねえの腕を信じてください」
「ナームさんはウェディングプランナーなんですか?」
「違いますよ、ローズちゃん。ナームはプラチュワップキーリーカン県にホテルとリゾートを持っているの」
「ホテルでは何百組もの結婚式を手がけてきたわ。ディンお姉さまとローズさんの式は難しくないわよ」
「じゃあ始めましょう、ナーム。私とローズちゃんが何をすればいいか、教えて」
「ファイったら、電話に出ないつもりなのかしら。メッセージを残しても折り返してこないし。カメラマンをお願いしようと思ってるのに。ディンお姉さまの結婚式が終わってからやっと連絡がつくなんてことにならないでよね。あの子は本当に世間知らずなんだから!」
ローズは目の前の慌ただしい光景をじっと見つめていた。ディンとナームは結婚式について真剣に打ち合わせをしている。ロムはファイに電話に出てもらおうと必死だ。みんながこれほど真剣に、自分のために動いてくれている。今さら「やっぱり結婚したくない」なんて、誰が言えるだろう。
偽りの結婚とはいえ、あと一週間もしないうちにディンの名ばかりの妻になるのだ。センラック農園のもうひとりの女主人になる。
そして、マハッタナコン家の目には、ディンのローズとして映る——。
「ディンお姉さん、そんなに深刻にならないでください」
「深刻にならずにはいられないわよ、ローズちゃん。今回の結婚式は大事なことだから」
「わかってます。でも、本当に結婚するわけじゃないんですから」


