特別編
第五章 二度目の夜
第二話
「どこに行ってたんですか、ピンさん。アニンはずっと待ってたんだからね」
私が午後に松宮の客座敷に一歩目を踏み入れると、蓮宮に一度戻って数時間しかたっていないにも関わらずアニンはすぐに私がどこへ行っていたのかと尋ねてきた。先ほどの彼女の発言を注意深く探ると、一人称が『私』ではなく『アニン』となっていることに気づいた人はいただろうか。開口からこんなにもあざといことをして、私の心をくすぶってくるなんて、策士以上に妥当な言葉は他に見当たらない。
「気づいたら私、寝ちゃっていましたの」
私は蓮宮に戻った時、叔母様と鉢合わせしまった話はアニンは言わないことにした。今、目の前でえくぼの見える可愛らしい笑顔を浮かべる彼女に、私が感じる気が気でなさを知ってて欲しくはない。アニンの笑顔を見ていると、悩んでいる事が愚鈍なことのように思えてきて、私も釣られて笑みを浮かべる。
「ピンさんと一緒に朝食を食べる為にアニンは待っていたんだからね」笑顔の似合う少女が台盤所にあるテーブルに手を向ける。「全ての用意は終わっていますわ」
「またアニンが作ってくれたの」私は納得がいかない表情を浮かべる。「アニンも知ってるでしょ、私はアニンに自分で何かをやってほしくないと思ってるって」
「別に良いじゃないですか」甲高い声と笑い声が混ざりあって聞こえてくる。「アニンはただ、ピンさんに何かやってあげたくてさ」
背の高いな彼女は腕を優しく私の腰に巻きつけてきて、私の耳元で何かを小さく呟いてきた。