第四十七章
お願いだから
ピランティタにとって……夜の帳が下りた後の時間は、まるで永遠に終わりの見えない薄暗い道を歩くようなものだった。皆が寝息を立て始める真夜中になれば……その道はさらに深い闇を帯び、足元さえおぼつかない、先の見えない漆黒の道へと化すのだった。
彼女は、そんな夜闇を切り裂き、助けに来てくれる朝日の登場を、毎日のように待ちわびていた。
しかし、さすがに昨日は、ピランティタにとって悪夢のような夜だった。
昨晩、松宮殿から聞こえてきたアニンラパット王女とウアンファーの楽しそうな会話。その響きは、今もなおピンの脳裏を駆け巡り記憶は薄れるどころか、ますます鮮明になっている。あちこちに積み重なる会話の断片から、少しでも自分を安堵させてくれるような話を探そうとするものの、そのようなものが見つかる気配は全くなかった……。
ピランティタは、どこにも移動せず寝台に横たわり、ひたすら涙を流し、涙が乾いたそばから、また涙を流す……そんなことを続けていた。
もはや動かすことのできない身体で、雲間から、まるで手を差し伸べるかのように光が差し込んでくるその瞬間を、彼女はじっと待ちわびていたのだった。
もう、先の見えない絶望の時間は終わったんだ……。
ピランティタは身体を起こし、まるで全てを吸収し尽くすかのような勢いで、日光を全身に浴びた。
寝台から立ち上がったピランティタが最初に行うのは、大好きな場所の窓を開けることだった。その窓からは、あの人がいる松宮殿がよく見える。今の関係性を思えば、もはや『あの人』との絆は『他人』と呼ぶのがふさわしいのかもしれない。そう思うと、目の前の窓は厚く、重たいものに感じられてしまう。そんな窓を、彼女はおそるおそる慎重に開けた。
松宮の窓から漏れるランプの淡い光は、その部屋にアニンラパット王女がいることを示している。そして、彼女が今日、お一人で寝ている可能性は限りなく低いだろう。昨晩、嫌というほど耳にした扉を開け閉めする音が、ピランティタの確信をさらに強めていた。ウアンファーを松宮に泊まらせるというアニン王女の発言は、遊び半分のものではなかったのだ。
ピランティタは、蛍光灯の光で照らされた藍色の外壁を見つめながら、ぼんやりと過去の記憶に思いを馳せる。雨が絶え間なく降り注いでいた二年前のあの日、アニンラパット王女が雨に打たれながら静かに座っていた、あの日を。あの日こそが、私のファーストキスを、愛してやまない人に奪われた日だった。
そう、ファーストキス……。
そして、初恋……。
そして、レディ・ピランティタという女性の物語に今後二度と訪れないであろう、最初で最後の愛。
そこまで考えると、起きがけからぼんやりとしていた意識は、胸に刺さるような痛みでにわかに覚醒し、彼女は耐えきれず左胸を両手で強く押さえ始めた。最初で最後のその愛を、無下に扱って放り投げたのは、他ならぬ自分自身だった。
何て汚らわしいのだろう……。
その独白がきっかけで、彼女は、自分の中にある鬱憤を吐き出したいという強い衝動を感じ始めた。彼女は、自分の愚痴や思いの全てを何も言わずに受け入れてくれる年季の入った日記を取り出し、感情の赴くままに筆を走らせた。ここ最近書き記した文章が、自分の涙で滲んで読めなくなったとしても、彼女はただひたすらに書き続けた。