第三十九章
金銀之簪
「ランナーの盛装に身を包んだアニンは……」
アニン王女の肩にかかる髪を耳の後ろにかき分けながら、ピンは柔らかな声で囁いた。
「美しすぎて、息をするのを忘れてしまったわ……」
「そんなにでしたか?」アニン王女は満面の笑みを浮かべた。
「そんなにです」ピンも幸せいっぱいの笑みを浮かべながら、アニン王女の頬に深くキスをした。
今夜行われるカントーク*の宴会では、ダラライ王女のご意向で、バンコクからの客人はランナーの盛装を着て参加することになる。二人はその準備をしているところだった。
上には青紫のパテープ、下には深紫と薄橙色の縞模様が施されたパトゥンを身に纏うアニン王女は、その肌の美しさを一層引き立たせていた。束ねられた髪と唇に塗られた薄桃色の口紅が加われば、その美貌は銅像のように際立つ。その他、身に付けている装飾品は、月の形を模した銀主体の首飾りと腕輪、そしてダイヤモンドが散りばめられた耳飾りである。
「アニンの簪は、私に挿させてください」
ピンは、美しいビラが垂れ下がる銀の簪を箱から取り出し、真剣な表情でアニン王女の髪に挿した。
ピンが簪を挿し終えれば、アニン王女のランナーの盛装は『あともう一歩』である。
「それなら、ピンさんの簪はアニンが挿してあげますね」
アニン王女は愛おしげにピンの腕に触れた後、たくさんのビラが付いた、冠の形をした金の簪を取り出し、お返しのようにピンの髪に挿した。
「今日のピンさんも、私の鼓動が速まるほど綺麗ですよ」アニン王女はピンの顎に手を添え、そっと押し上げて目を合わせるようにした。「ピンさんの愛くるしく可愛い顔は、ランナーの盛装によく似合っているわ」
アニン王女は何もお世辞を言っているわけではない。ピンの小さく華奢な体格は、彼女が身に着ける朱華色のパテープによって艶やかな肌を一層引き立て、下に巻く深紫のパトゥンとも見事に調和している。その組み合わせは、彼女の体の美しさをよく引き立て、見る者に我を忘れさせるほどのものだった。
「その言い方だと、アニンがランナーの女性を美しいと思っているように聞こえるわ」
「うーん……」アニン王女が笑い始める。「どうして、そんな風に捉えてしまうのかな?」