第四十章
王女の命令
「私たちには話さなければならないことがあるわ、レディ・ピランティタ」
パッタミカ王女は、桃蓮宮に足を踏み入れた途端、絶対零度のような冷たい声でそんなことを突然口にした。
ピランティタは、心が地に落ちるような気分になった……。
パッタミカ王女が彼女の名前をしっかりと呼んだのは、一体何年ぶりのことだろう。ピランティタが大学の志望校を決めていた時のことを思い出す。第一志望にしていたのは、バンコクでも屈指の有名大学の芸術学部だったが、ピランティタはバンコク以外の他県にある大学も志望校に含めており、そのことに当時の叔母様は大変お怒りだった。無事に第一志望に合格し、さらに首席で入学できたことでその怒りを免れたものの、もしあの時何かがうまくいかなかったら、叔母様と顔を合わせることは難しくなってしまったのだろう。今でもピンは、そんなことを考えることがある。
「はい、叔母様」
ピランティタは不安まじりの声で返事をし、勉強部屋から自分の仕事場となっている二階の書斎へと足を進めた。パッタミカ王女は、彼女が来客用に設けた部屋の隅の椅子に腰を下ろした。
「まずは座ってください、レディ・ピランティタ」
パッタミカ王女は、ピランティタに自分の正面に座るよう手で促したが、ピランティタは聞こえなかったのか、俯いたまま自分の足元に視線を落とし、動かずに固まっていた。
「座って、と言っているでしょう?」
部屋に響くパッタミカ王女の声は重く、まるで室内の重力が倍増したかのように感じられ、ピランティタは息苦しさを覚えた。彼女は抵抗をするのをやめ、覇気のない様子で椅子に腰を下ろした。
「ここ最近、ピンは叔母にとても反抗的だわ」
「……」
「私たちは……もう互いへの愛と尊敬を忘れてしまったのかしら」
その声は喉元を貫いてくるような鋭さを感じさせたが、同時にどこか力なく、振り絞られた最後の言葉のようにも聞こえた。いずれにしろ、ピランティタはそんな風に声をかけてくる叔母の心中を痛いほど理解していた。
「そうではありません、叔母様……」ピランティタは、叔母から向けられる鋭い眼光を前にして、胸が締め付けられるような罪悪感を感じ始めた。「私が叔母様を愛さなくなったり、尊敬しなくなるということは、決してあり得ません」
「そうかい」
パッタミカ王女は、ピンが幼い頃から愛情と真心を込めて彼女の面倒を見て、どこに出しても恥じない魅力的な女性へと育ててきたと自負している。今、無意識のうちに記憶をたどる彼女の両目には、ひび割れのようなものが刻まれているかのようだった。
「はい、そうです。叔母様」
ピランティタの丸く澄んだ目には、偽りの影は全く見えなかった。
「もし私は愛してくれているのなら、なぜこんなことをするのかしら」パッタミカ王女は何かを堪えるように唇を強く引き締めた。「なぜ神聖なものに手を伸ばし、まるで地へと堕ちたかのような行為を続けているのかしら、レディ・ピランティタ?」