第三十七章
チャオファー邸
実は、ウアンファーがその名に受け継ぐ『ダラワン』という家系は、すべての成員が北方出身の人間で構成されているわけではない。ウアンファーの父方の祖父はサイアム*の出身で、紆余曲折を経て、当時チェンマイを統治していたブリーラット氏の一人娘と結婚した。そして、ウアンファーの父であるチャックラカムが生まれ、王宮としてのサイアムから名を授かり、チャックラカム公となった。そして彼は、亡くなった母から『チャオファー邸』を正当な所有者として受け継いだ。さらに時は流れ、チャックラカム公は、自分の父親と同じサイアムの地からやって来たダラライ王女と結婚し、ランナー地方の血よりもサイアムの血の方が濃い『クオーター』としてウアンファーが生まれた。しかし、彼女自身はランナー地方の文化や習慣の中で育ったため、サイアムの人間なのか、それともランナー地方の人間なのか、どちらとも言えないような少し『ちぐはぐ』な部分を抱える女性となった。
ウアンファーは、そんな境遇に置かれながら人生の伴侶を探さなければならないという、不遇の現実から逃げ続けていた。婿候補として名前が挙がっている人物は二人いると言われている。
一人は、母であるダラライ王女の親戚にあたる、サイアム出身の王子。もう一人は、チャオファー邸の最初の所有者である父方の祖母と交流があり、北方地方に住む名家のお方だ。
婿候補と自らの家族のそれぞれから結婚への重圧をかけられる状況に、ウアンファーはすっかり慣れてしまっていた。
だが、今、彼女は人生で初めて、その現実にまざまざと直面させられていた……。