シークレット・オブ・アス|特別編 第二章 第一話 後編【支援者先行公開】
- ミーナム
- 9月6日
- 読了時間: 14分

シークレット・オブ・アス 特別編 第二章 第一話 後編
女性の可愛らしい微笑みに促され、ラダーは急いで足を速めた。今夜は、ここで勉強しているタイ人学生グループの卒業祝いのパーティー。帰国を決めた人もいるため、それぞれが新たな役目を担うための別れの宴でもある。
高級なペントハウスに入ると、ラダーは長いコートを脱ぎ、先に置かれていた他人のコートとは少し離して置いた。すると、まっすぐ近づいてきた女性が笑顔で迎える。
「遅かったですね」
「急患があってね。すごく急いだんだよ。アーンはもう何か食べた?」
「まだです。センセイを待ってました。一緒に食べたいから」
「もう八時になるよ? またお腹痛くなっても知らないよ」腕を掴む柔らかな手が触れても、ラダーは小言を止めなかった。この可愛い子は、胃が弱いくせにいつも決まった時間に食事をとろうとしない。
「恋人が医者なんだから、アーンは怖くありません」
「ほんとに頑固なんだから」
「頑固でも、センセイはアーンのこと愛してるでしょ?」いたずらっぽい表情の彼女に、ラダーはついアーンの鼻をつまんだ。その時、周囲から茶化すような挨拶が聞こえてきたため、入り口で甘い会話を続けるのをやめ、中へと歩を進める。
パーティーは楽しく進み、皆がそれぞれ自由な時間を楽しんでいた。まもなく、決められた役割や家業のために自分らしさを抑えて生きる日々が待っているのだから。
美しい色のアルコールが、次々とグラスから消えていく……。
「ファーラダー先輩はいつタイに戻るんですか?」
「まだ決まってないのよ」
「もしかしてアーンちゃんが卒業するのを待ってるんじゃ?」男性の後輩の冗談めかした言葉に、ラダーは微笑むしかなかった。その通りなのだから。あと一年ちょっとすればアーンちゃんも卒業し、一緒にタイに帰れる。
「まあ、そうなるかな」
「僕は本当に二人が羨ましいです」
「羨ましい?」
「アーンちゃんは明るくて可愛いし、ラダー先輩はすごく美人だし、ほんと羨ましいです。さあ、飲みましょう!」次々におしゃれなグラスが空いていき、会話も弾んでいった。
何杯か琥珀色の酒を飲み干したラダーの頬が赤く染まり始める。恋人の甘い瞳は、心配そうにこちらを見ている。
「ちょっとセンセイを見てきますね」ゲームに夢中なグループを離れ、アーンは急いでテーブルに寄りかかる美しい医師の元へ向かった。
アルコールの香りがふわりと漂ってきた瞬間、彼女はすぐに気づいた。今日のセンセイは、いつもよりずっと多くお酒を飲んでいる。潤んだ瞳がその証拠のように甘く輝いていて、いつもの冷静で凛とした雰囲気とはどこか違って見えた。センセイは前にこう言っていた。「できるだけお酒は飲まないようにしてるの。飲むとしても、ほんの少しだけ」それなのに、どうして今日はこんなに酔っているんだろう。まるで、何かを忘れようとしているみたいに。
「アーン〜……」甘ったるい声で名前を呼ばれ、アーンは驚いた。唇の端の見慣れない微笑みにも違和感がある。まるで目の前にいるのが、いつもの優しいファーラダーセンセイではないかのようだ。
(もしかして、アルコールがあの優しいファーラダーセンセイを別人のように変えてしまうのだろうか?)





