シークレット・オブ・アス|特別編 第二章 第一話 前編【支援者先行公開】
- ミーナム
- 8月31日
- 読了時間: 12分

シークレット・オブ・アス 特別編 第二章 第一話 前編
ラダーは開きっぱなしの書類を疲れた目で見つめていた。誰だっけ、管理職は楽だなんて言った人は。全然楽なんかじゃない。病院を発展させて利益を上げてスタッフへの報酬を出すためには、ずっと頭を使わなきゃならない。
彼女が本当に望んでいたのは、患者を治療する一医師として働くことだけで、病院の管理職につくことなんかじゃない。でも、どんなに嫌でも避けられない。だってセントキング病院は曽祖父の代からお父様へと受け継がれてきた家族の事業で、お父様の代には誰もが認める立派な病院へと成長したから。
コン、コン、コン!
ノックの音でラダーはファイルを閉じ、「どうぞ」と入室を促した。おそらく外にいるのは、いつも時間外勤務にならないよう注意を促しに来る秘書だろう。
「先生、もう退勤のお時間ですよ?」
「ありがとう。ちょっと夢中になりすぎちゃった」
「ちゃんと休まないとダメですよ。最近、ファーラダー先生のことを患者さんがしょっちゅう質問してきます」秘書はそう言って、皮膚科の『天使』の異名を持つ医師に微笑みかけた。ラダーが管理職の仕事を始めてから、診療時間がかなり減ってしまっていた。
「そんなことないと思うけどなあ」
「そんなことありますよ。この前なんか、アーンさんがインタビューで『大切な人が忙しくてなかなか会えない』って言ってましたけど……」
「本当に? そのインタビューまだ聞いてなかった」
「本当です。先生もたまにはお仕事を休まれてくださいね。大切な人もちゃんと構ってあげないと。理解があると言ってもやっぱり寂しいものですから」
「気遣ってくれてありがとう」
「私も昔、同じようなことがあったんです。仕事ばかりに夢中になって、大切な人と別れることになってしまって」
「辛かったでしょう?」
「もう昔のことですよ、新人の頃の話です。今は子どももいますしね」
「ごめん、忘れてた」
「忘れちゃうくらい仕事に集中しすぎですよ……じゃあ、私帰りますね。先生も早く帰って、大切な人をケアしてあげてくださいね」
ラダーは書類を整理して、自分も仕事場を後にした。でも彼女はまっすぐコンドミニアムには帰らない。恋人は夜の撮影があるので、今日は親しい友人たちと夕食の約束をしていた。





