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ロイヤル・ピン|特別編 第九章 プリックプリック 第四話【限定公開】



ロイヤル・ピン特別編

特別編

第九章 プリックプリック

第四話 


 プリックは、母であるユアンの手伝いで、前翼宮の台盤所で唐辛子の下処理をしていた。ふと、台盤所に何やら良い匂いが漂い始めたことに気づき、プリックは手を止めた。よく効く鼻を犬のように機能させながら、周囲に疑問を投げかける。


「誰が何を焼いているのかなあ」台盤所中に響き渡る声でプリックが問いかける。「良い匂いがここまで届いちゃってるわよ」


「プライくんよ」プリックの母、ユアンはすぐに答えた。「市場で豚バラ肉をたくさん仕入れることができたからって、母さんに作ってほしいとお願いしにきたのよ。だから、お前に唐辛子を用意させてるのよ、プリック」


「待って。つまり母さんは、ムーヤーンのタレを作ろうとしているの?」


「そうよ。プライくんにね。私にも分けてくれるという話だわ」


「母さんにだけ、かな」プリックはごくりと唾を飲む。「それとも、私も食べていいのかな」


「知らないわよ」ユアンは膝を立てて、柄の悪い姿勢になる。娘が誰に似たのか、よく分かる態度だ。「自分で聞きにいけば良いじゃない。薪倉庫の前で、豚バラ肉を焼いているはずだわ」


「なら、ちょっと待っててね、母さん」


 プリックは手を止めて、薪倉庫の方へ駆けていった。倉庫の前に着くと、ほど良く脂の乗った旨みたっぷりの肉を焼いている青年の姿が見えた。肉汁が炭へと滴り落ちるたびに『ジュワッ』という音が鳴り、食欲をさらに掻き立てる。匂いの正体が何なのかわかっていても、改めて目の前にすると涎が止まらない。


「プラァイさあん……プラァイさん」プリックは甘い声で彼の名前を囁く。「ここで何をしているのお?」

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