特別編
第四章 切れ間
第一話
『冬が近づくと、口吸いをする人たちが四方八方にいて、目のやりばに困ることが後を絶えなかったわ。恋人同士達の口付けもあれば、そうでない人達の口付けもあったような。人が犇めき合うほど込み合う公園でも、化学の本のような難しい本が立ち並ぶ書物庫の隅にある人気のない場所でも、そんな光景が目に飛び込んでくる。
この国の人たちは口付けを隠そうとせず、毎回堂々としている物だから、アニンが疑問を抱くのにもそう時間はかからなかったわ……。
キスの味とはどういう物なのか……。
ピンさんは……アニンと同じように考えた事はあるかな。
口付けの味ってどんな物なのか?』
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『私は口付けの味がどんなものなのか知らないわ。そして、これから先にその味を知る機会なんて一生訪れることが無いことについては良く知っているわ。アニンもそうであるべきだからね。こういった合間の時間を使って勉学に勤しむべきではないのかしら。アニンが勉学を頑張って出来る限りで早く帰ってこれるようにすべき、だと私は考えるわ。
私はアニンに早く帰ってきて欲しい。
私が今日もアニンの帰りを待つこの場所に。』
「アニン」エマの柔らかい声が、妄想の世界から私を呼び戻した。「キスしている人を見る度に固まってばかりいてはいけないんだからね」
「何でダメなのよ」
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