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ロイヤル・ピン|第五十章 傷心【限定公開】



ロイヤル・ピン第五十章

第五十章

傷心


 レディ・ピランティタの結婚が破談になったという知らせは国中を駆け巡った。その上、結婚式を破談に追い込んだ女性が貴公子グアキティとの子供を身ごもっていると知り、ピランティタが悲嘆に暮れて夜な夜な咽び泣いているという、誇張と評するのが些か可愛らしく思えるほどの事実無根の噂話まで流れていた。

 実際には、むしろ大変に喜ばしいことだと受け止められていたのだが……。

 確かに、罪悪感はある。だが、あの日、あの場所にサーウィティリーという女性が救世主のごとく姿を現し、貴公子グアキティとのたった数回の会話だけで彼の醜い化けの皮を剝いでくれたあの瞬間——彼女が覚えた安心感、そして高揚感は、言葉で表すことができないほどのものだった。

 叔母様がその目で『汚点一つない』と見定めた甘い仮面の下には、見るに堪えないほど醜い本性が隠されていたのだ。

 あの日に起きたすべての出来事は、まるで短編小説をそのまま実写化したようなドラマであり、自分はただ運悪くその主役に据えられてしまっただけだ。ピランティタはそう感じていた。

 特に、グアキティが懲りずにパッタミカ王女へワーイをしながら泣いて縋りつき、『もう一度やり直させてください』と懇願した瞬間、パッタミカ王女が一切の慈悲を見せることなく、その願いを断固として拒否した——あの瞬間の光景は滑稽そのもので、ピランティタは胸のすくような気分だった。

 正門を突破することはできないと悟ったグアキティは、案の定、頼みの綱であるアノン王子に縋りついた。『ピランティタにまだ正式な謝罪をできていない』などと建前を述べ、ピランティタに接近しようと試みたのだが、アノン王子は『父である太子様が仰られたことは絶対だ』と一蹴し、仲の良い友人の願いを一刀両断したのである。

 あの日の出来事は、確かに自分の汚点として今後語り継がれることになるだろう。だが、外道そのもののような男、グアキティと縁を切ることができたのだと思えば、むしろおつりがくるほどのものだとピランティタは感じていた。

 一連の出来事の中で、最も深い悲しみを覚えた人物は誰かと言えば、貴公子グアキティを『裏表のない最良の相手だ』と豪語し、自らの持つすべてを彼に賭けてしまった、パッタミカ王女その人だろう。

 パッタミカ王女は、悩みに悩んだ末に、姪の硝子のような脆い心を顧みることなく、自らの意見を一切曲げようとしなかった。その結果、自分が特に気に入っていたアニン王女と真っ向から衝突してしまったのだ。

 だが、最終的に判明したことは、自分が見定めていた貴公子グアキティの姿は全く見当違いのものだということだった。彼女はそれを『最良の相手』だと考えていたわけで、愚かにも程があるというものだ。

 そんな醜態を晒してしまった自分を恥じたのか、パッタミカ王女は三日三晩、人前に姿を現さなかった。だが、いつまでもジタバタしても仕方がないと、後悔の念を断ち切ったのか、四日目には再び威厳あるパッタミカ王女らしい振る舞いを取り戻し、前翼宮の台盤所で指揮を取り始めるなど、テキパキと動き始めた。そして、いつも通りアリサー妃と食事を共にする姿も見られるようになった。

 アリサー妃もパッタミカ王女の心中を察し、胸にわだかまりを残すような話題には一切触れなかった。まるで、あの日彼女の大切な姪に降りかかった出来事が、ただの泡沫の夢であったかのように、いつも通りの日常を過ごし続けた。

 そして、誇張に誇張を重ねた報道は……レディ・ピランティタは悲しみに暮れるあまり体調を悪くされたという、もはや原型をとどめていない内容にまで膨らんでいた。

 確かに、彼女は病気に臥せている。だが、それは国中を騒がせているような理由からではない。他の誰よりも愛し、いつも心の中にいるその人が、あの日から五日経った今なお、その影すら見せてくれないのだ……。

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