第十三章
見知らぬ顔
「アニン王女は、アナン王子の婚礼の儀にご参加する為に一時的に帰国されただけで、本帰国ではないのよ。何もそこまで嬉しがる必要もないですわ、プリック」
歓喜に満ち溢れ騒いでいたプリックだったが、パッタミカ王女のお言葉を聞くと、枯れた花のように静かになった。そして、アニン王女の帰りをプリック以外にも喜んでいる人物がいた。
その人物とは、勿論ピンであり、一時帰国と知るや否や、嬉しさで溢れていた姿は一転し、プリック同様に肩を落とす。
「ということは、アニン王女は数日間しかいらっしゃらないのでしょうか」ピンはしょんぼりした声で叔母に問いかける。
「いえ、数ヶ月間こちらにいらっしゃると聞いているわ。今は、進級される前の長期休暇だからだそうよ。あなたの大学の休暇期間と同じらしいわ、ピン」
『数ヶ月』この言葉を聞いただけで、ピンの心の中に溜まっていた不安の一部分が消えていくような気がした。
「アナン王子の婚礼の儀がアニン王女の長期休暇と丁度重なるなんて、本当に偶然ですね、叔母様」
「偶然なんかではないのよ、ピン。アナン王子は婚礼の儀に妹君にもお顔を出して欲しいと思われていらっしゃった為、この時期に予定をしたのですよ」
「そうだったのですか。アナン王子はアニン王女のことを本当に愛し、大切に思われていらっしゃいますね」
「王子はアニン王女のことを娘のように思っていらっしゃったからね。アニン王女に、結局のところご自身のことを長兄と思っているのか、それとも父だと思っているのか、どちらなんだと尋ねたこともあるそうよ」
パッタミカ王女は微笑む。
「婚礼の儀だけではないのですよ。飛行機の乗車券の手配から、松宮殿の工事を管理して完成を早めるなど、自ら舵を取り、何から何まで、アニン王女のご帰国までに間に合うよう用意されたいらっしゃったの」
アニン王女の本帰国まで後二年はあったが、なぜ松宮殿の完成を早められたのか、その理由を理解できたピンとプリックは、同時に顔を上下に動かす。
「叔母様はこのお話を前から知っていらっしゃったのですよね」
Comments