第四十三章 愛人
ケードさんから聞いた話は、私が状況を理解するには十分だった。もう馬鹿げた振る舞いは絶対に、しない。サムさんのことを、側で支えたい。きっと今、すごく大きなプレッシャーが、あの甘い顔の人へのしかかっているはずだから。例えば、おばあ様の気持ちを受け止めること、そして、私の気持ちを心配し、気遣うこと、とか。
美しいボスは、家の中を片付けて掃除をしている私の姿を見て、急に飛び付いて、後ろから抱きしめてきた。まるで、家からいなくなってしまった大好きなワンちゃんが戻ってきたのを発見した小さな子どもみたい。
「あっ! サムさん」
「あんた、この家に帰ってきたんだね」
「そんなにビックリしたんですか?」私は目を合わせて、柔らかく微笑んだ。「サムさんが嬉しそうで、ちょっと照れちゃいました」
「あたしに怒っているのかな、って思ってた」
「なんで私がサムさんのことを怒るんですか?」
「だって……あんた、おばあ様のことで苦しそうだったから。だから、あたしにも怒っているんじゃないかなって考えちゃって」
「もしかして、寝るときにもこのことについて考えていたんですか? 目の下にクマができていますよ」異変に気がついた私は、箒をソファーの横に置いて、同じくらいの高さにある顔を両手で支えた。「サムさん、寝不足の顔をしていて、全然綺麗じゃないです」
そんな軽口を叩いたことにも構わず、サムさんは私を引っ張って、避難所を探すような必死さでぎゅっと背中に回した両手の力を込めた。ここに立つ私を見て、すごくほっとしたんだろうな。自分のしちゃったことを思い出して心が痛くなる。
「今日はたぶん寝られるわ。あんたが戻ってきてくれたから」
「もう何か食べましたか?」
「まだ」
「じゃあ、作ってあげます。食べてから、シャワーを浴びて、寝ましょう」
「今日は、しない?」私は一瞬動きを止めて、唇を尖らせた。
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