クレイニアム｜第十章【支援者先行公開】
- Nalan
- 1 日前
- 読了時間: 11分
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小説『クレイニアム』 第十章
ブサヤー博士は死者の遺体と向き合ってほぼ半日を過ごし、疲れきった様子で研究所の建物を出た。
警察が新しい手がかりを掴めないまま、もうひと月近くが経っている。ブラックボックスは依然として見つからず、調査はありえないほど滞っていた。例外は、チャーター機を運営する会社への事情聴取くらい。
寮に戻るか、それとも研究所近くの市場に行って夕食を調達するか。足を止めて迷っていた時だ。見覚えのない黒いセダンが、彼女の目の前で止まった。
胸の奥に妙なざわめきが走る。車そのものに記憶はない。だが――なぜか、この車の持ち主は知っている気がした。
助手席側の窓が下がり、運転席の顔が露わになる。
（やっぱり……）
「なんでメッセージに返事しないの？」耳慣れた声に、ブアは小さくため息を吐いた。
「どうして先に来るって言わなかったの？」ブアも問い返すように言った。「そうしたら私は、ここにいなかったのに」
「乗って」
「また今度にして。今日は眠いの」
「あんたが眠くない日なんて、あるわけ？ 寝坊助さん」
聞いていた彼女はただ肩をすくめて、別の道へと歩き去った。そのまま夕食を買いに市場へ向かい、そして彼女が一番したいことをした。それは……