クレイニアム｜第九章【支援者先行公開】
- Nalan
- 5 日前
- 読了時間: 9分
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小説『クレイニアム』 第九章
黒いジップ袋に収められた小型チャーター機墜落事故の犠牲者の骨が、目の前のステンレス台に置かれている。 ブアがライバルに言った「息をつく暇も、眠る時間もほとんどない」というのは大げさではなかった。パソコンの画面から顔を上げる間もなく、副業を挟む余裕など皆無だ。
指導教授はパナマから帰国したものの、大学院との共同研究の書類処理に追われ、二週間から一カ月ほどはまだフルタイムで授業に戻れない。したがって、その間の業務はすべてブアが背負うことになっていた。
「ブア先輩、先生からもう一度伝えるよう言われました。今週中に新しい研究員が入るそうです。まだ日程は未定ですが」
「はい、朝メールで受け取りました」ブアは顔も上げずに応じる。
「学生さん、もうお待ちです」
「あと十分くらいしたら入ってもらって。ちょっと準備させてね」研究所の秘書オン（二十七歳）にそう告げると、ブアはこのあと役割を切り替えねばならなかった。研究員から、大学院一年生向け「身体人類学」のワークショップ担当教員へと。
（あの女、まだメッセージで仕事を催促してくるなんて。急ぐなら自分で戻ってやればいいのに）
その考えに、ブアは大きくため息をついた。どうして今になって、あの「（不）愉快な旧友」が頭に浮かんできたのだろう。以前はほとんど思い出すこともなく、もう忘れかけていたというのに。しかし、飛行機事故の後、謎のミイラの頭蓋骨、そしてピンヤーの失踪――。それらが起きてからというもの、ブアはあの人のことを何度も思い出すようになっていた。そのたびに、なぜか苛立ちを覚えずにはいられなかった。 それなのに、どこかで彼女の帰りを待っている気がする。ピンヤーがこのまま国外に留まるのか、それとも戻るのかもわからないまま。
