クレイニアム｜第八章【支援者先行公開】
- Nalan
- 10月26日
- 読了時間: 12分
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小説『クレイニアム』 第八章
ピンヤーは約束どおり二時間後に車で迎えに来た。ブアはそのまま、研究所のビルからそう遠くないレストランに座っている自分に気づいた。
向かいに座る相手は黙々と食事をしていて、口数もなく落ち着いているように見える。ピンヤーの目にはそんな姿が映った。
「まだ震えてるの、バイブア。いつものおしゃべりはどこへ行ったの」そう問うが、返ってきたのは首を振る仕草だけ。
「どう感じればいいのか、分からないの」ブアは曖昧に答えた。
「怖かった？」
「まあね。だって、こんなの初めてだったから」話し手は一息置いてから、失った冷静さを取り戻すために深く息を吸った。「だからどう感じるべきか分からなくて」
「深呼吸してごらん」かつての博士課程の同期がそっと助言した。「きっと大丈夫だから」
「あなたはどうやって乗り越えてきたの？」今度はブアの方が問い返した。「それとも、どうやって受け入れられるようになったの？」その問いに、相手はふっと微笑み、 一瞬だけ何かがきらめいたような眼差しをブアに向けた。だが、それもすぐに消えてしまった。
「最初に現場へ出た頃のことなんだけど。グアテマラでアウストラロピテクスの化石が出てね。私は焚き火のそばで寝ていた。夜中に突然、怒号と銃声が響いたの。まるで今日みたいに」
「そのとき、どうしたの？」
「頭では『隠れろ』って命じてた」ピンヤーは語った。「でも実際は体が動かなくて、金縛りみたいに固まった。うつ伏せに倒れて、手足で必死に地面を蹴って這うだけ。恐怖で立ち上がる力もなく、息もできず、二、三メートル進んだところで体が硬直した。このまま異国の地で死ぬんだって思ったわ。……最後は仲間が私を引きずって隠れ場所へ連れてってくれて、助かった」
それは、初めてピンヤーが普通の口調でブアと語り合った瞬間だった。昔馴染みと久々に近況を語り合うように。
「大丈夫だよ、バイブア。信じなさい」ブアがこれまで一度も聞いたことのないほど、ピンヤーの声は優しかった。
そのとき、二人の視線がちょうどぶつかった。ピンヤーのきらめきと、ブアの恐怖に濁った瞳。唇をかみしめ、彼女は頷いてからそっと視線を逸らす。
「いつ帰国するの？」
「どうして。もう私に飽きたの？」
