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ロイヤル・ピン|第二十七章 取捨選択【限定公開】



第二十七章

取捨選択



 少し面倒な話がある……。

 アニン王女が、久しぶりに目にした大地へと上陸したことを意味する、第一歩を踏み出した。いまだに見慣れた気分のしないこの土地の景色を、しかし、アニン王女はよく知っていた。なぜなら、彼女は数年間ほどの期間をここで過ごしたことがあるからだ。そして、まだ到着したばかりだというのに、問題の数々は次から次へとアニン王女のもとに押し寄せてくるのだった。

 最初の問題は、ヘンリー……建築学部で共に大学生活を送る、青い目を持つ金髪の青年に関することだった。彼は今、決して這い上がることのできない、恋という大穴の中に落ちてしまっているようだ。

 アニン王女の冷たくあしらうような言葉にも、ヘンリーはめげることがなかった。繰り返される否定的な言葉を幾度となく聞き続けることができる彼の精神は、耳を持たないのかと疑いたくなるほどの図太さだった。

 青年はよく、校舎や図書館、生徒用の寮の近くにある公園でアニン王女のことを待ち伏せしては、好きな本についてのとりとめのない話や、次の週に教授に提出しなくてはならない課題の話、世間話に至るまで、とにかく短い話でも構わないとばかりに、根気よく会話の機会を見繕おうとするのだ……。

 ヘンリーは、そんなとりとめのない会話のところどころに、甘い言葉や囁きを散りばめている。

 アニン王女にとって……そんなヘンリーの甘い誘惑の言葉は、耳の周りを飛ぶコバエの羽音のように、耳障りなものでしかなかった。

 アニン王女はこの件について、新婚旅行でヨーロッパ諸国を周遊し、今は郊外にある私邸で羽を休めているアナン王子に相談していた。だが、アニン王女が説明を重ねてもお兄様は微笑むだけで、ようやく口を開き、この問題を解決しようと手を差し伸べてくれるまでには、相当な時間を要した。

 そして先週、アナン王子はアニン王女に、彼の私邸で開かれる晩餐にヘンリーを招待するよう指示を出した。アニン王女からのお招きを受け、青年は予想外のことに驚きつつも、意中の女性からの誘いに胸を高鳴らせ、嬉しさで笑顔を弾けさせたという。そして、期待に胸を膨らませながら晩餐の時を迎えたヘンリーだったが……お兄様の仏頂面を前にして、彼の満面の笑みは跡形もなく姿を消してしまった。

 その日の晩餐は、ヘンリーの周りを包む重苦しい空気のせいで、時間の流れは足取り重く、全身を拘束されているかのような気分がするものだったらしい。アナン王子がヘンリーに、彼の家柄や素性についての質問を厳かな趣で問いかけるたびに、彼の顔に浮かんでいた笑みは徐々に姿を消していき、お開きを迎える頃には、石のようになってしまっていた……。

 アナン王子は、ヘンリーがぽつりぽつりと彼自身の身の上について話し始めたのを見て、間髪入れず、アニン王女に相応しい男の身分について、畳み掛けるような怒涛の攻撃を仕掛けた。気高い王女が庶民と婚姻を結ぶためには、王女はその身分を返上し、庶民として生きていくことを宣言しなければならない。アナン王子は最後に、短く簡潔にその事実を告げた。

 そしてアナン王子は、このような決断をアニン王女一人にさせることは絶対にあり得ないのだということを、より一層厳しい形相と声色でヘンリーに告げ、彼に引導を渡したのだった。

 ヘンリーの表情はすっかり青褪め、晩餐で出された料理を口へ運ぶことは指で数えるほどしかなかった。金髪の青年がその場から立ち去る前に、アナン王子は紳士が持つべき、そして実践を伴うべき資質について、とびきり長く講釈を垂れた。


『意中の女性にしつこく声をかけることはとても恥ずかしいことなんだぞ。ましてや、アニンはお前の告白を何度も断ったと聞いている』アナン王子は鋭い眼差しを緩めることなく、ヘンリーを凝視し続ける。『紳士のように振る舞いなさい、ヘンリーとやらよ』

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