第三十五章 聞こえた
この場が、静けさで満ちている。カークさんはサムさんと私を見た。彼の顔は既に青白くて、血の気もなかった。でも、今、自分の耳に聞こえたものが信じられない、と笑っている。
「冗談でしょう? サムとモンが恋人になる訳ないよ」
言いながら、カークさんは私の襟と着崩された服を見下ろして、言葉を止めた。カークさんはそれほど愚かじゃない、今、そのカッコいい人の中で何かが繋がっていくのを私は確信した。
「まさか……僕が入って来る前に、あなた達は……」両手で自分の髪を掻き上げながら、続ける。「そんな訳ないでしょ? いつから?」
「カークさん」
私が相手へ伸ばした手は、カークさんが後退りしたことで虚空を掴むことになった。あまりの衝撃で、私の近くにいるのが堪え難いらしい。
「モン……僕はそんな事考えもしなかった。あなたとサムがそんな事を……そんな事を……」
「終わりよ。カーク」
サムさんは、恋人でかつ、付き合いが長い友人でもあるその人が納得できるように、もう一度言葉を重ねた。カークさんは無言で、そっと部屋から出て行って、私とサムさんを二人きりにした。重い空気感をそのままに残して。
「サムさん、あんなこと言うべきじゃありませんでした」
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